Washington Files

2021年3月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン4社の「GAFA」に象徴される最先端IT分野で世界をリードし続けるアメリカ―。だが今、人間生活の根本的ウェルビーイングともいうべき公衆トイレの嘆かわしい実態が主要メディアで指摘され始めている。

(Justin Smith/gettyimages)

 「アメリカは用足す人々のための態勢になっていない America is Not Made for People Who Pee」―高級紙として知られるニューヨーク・タイムズ紙は去る6日、著名コラムニストによるこんな見出しの異例ともいうべきコラムを掲載した。

 東京支局長など世界各国の特派員も務めたベテラン記者のニコラス・クリストフ氏が各国と比較したアメリカの公衆トイレ事情をバッサリ切り捨て、バイデン大統領に抜本的改善策をアピール、具体的に以下のように論じた:

 「2000年以上も前のギリシア・ローマ時代の公衆トイレといえば、穴の開いたベンチに座り用を足す程度で、隣との境もなく、終わるとスポンジのついた棒切れで汚れをふき取る程度の原始的なものだった。それでも数だけは今日のアメリカより上回っていた」

 「アメリカの事情は改められなければならない。日本には清潔で誰でも利用でき、ペーパーもきちんと用意された、世界一洗練された公衆トイレがあるし、他のほとんどの先進工業国もアメリカ以上に膀胱にやさしい bladder-friendly 状態にある。より貧しいインドや中国でも公衆トイレのネットワークが管理されており、用意のないのはアメリカだけだ」

 「ホームレス生活を強いられているマックス・マッケンタイアー(37)によると、(コロナ禍以来)ほとんどの雑貨店やストアでは客以外はトイレ使用を断られ、やむなく空き地や駐車場の隅で放尿せざるを得なくなるという。しかし都会では、ホームレスにかぎらず、1日中外に出ているタクシー運転手、配達人、観光客たちは絶えず、人間の根本的要求には無頓着な地域でしかるべき場所を探し回ることになる。そして人通りの少ない場所で男女を問わず威厳をかなぐり捨てしゃがみ込むシーンに出くわすことは珍しくない」

 「ミズーリ州ファーガソンではウォルター・ライスさん家族が市立公園を散策中、公園内にトイレがないので4歳と2歳の男児を木陰に連れていき放尿させたが、警官に現行犯逮捕され、9時間拘留された。オクラホマ州ピードモントでは、3歳の児童が公衆の面前で用足ししたとして2500ドルの罰金を科せられた。女性が似た状況で逮捕や罰金を科せられたケースは多くはないが、レイブン・ドレイクさん(37)は『道路脇などで初めて座り込まざるをえなくなった経験をしたときは、自分の尊厳を傷つけられる思いだった。やがて時間がたつにつれて人間性そのものさえ疑う気になった』と告白している」

 「アメリカの各都市ではこれまで、十分な数の公衆トイレ設置の試みが何度か行われてきたが、コストがかかりすぎるとか、麻薬常習者、売春婦のたまり場になるといった理由で放置されてきた。しかし、民主、共和の党派を問わず、これまで政治家たちは、わが国に公衆トイレが絶対的に不足しているという根本的問題についての認識を欠いてきた。バイデン新政権は老朽化した道路、橋梁などの大規模インフラ整備に着手する予定だが、それのみならず、人間の膀胱、大腸問題とも真面目に向き合うべきだ」

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