Washington Files

2021年3月8日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

全米第2の巨大州テキサスを襲った猛吹雪は、700百万世帯が何日にもわたり電気、水道なしの悲惨な生活を余儀なくされ、80人近くの犠牲者を出すなど、州全体に深い爪痕を残した。しかし、永年、政府の介入を忌避し、災害への備えを怠ってきた結果の「人災」との厳しい指摘も出ている。

(Brett_Hondow/gettyimages)

 テキサス州を中心とする南西部諸州は去る2月13日から17日にかけて零下5度前後の寒波と猛烈な吹雪に襲われた。中でも直撃を受けた、ヒューストン、ダラスなど屈指の石油産業都市を擁するテキサス州南東部では、風力、水力、火力発電設備の凍結、停電、断水のほか交通も遮断され、救急車出動、救援物資輸送にも支障をきたすなど、多くの市町村が孤立状態となった。電線の切断、水道管の破裂にともなう復旧作業も、各地で大幅遅れが生じた。

 ヒューストン市だけで150万世帯、同市を含むハリス郡全体で350万世帯が停電、断水状態となり、各家庭では道路周辺に積もった雪をバケツで持ち帰り、台所の炊事、皿洗い、トイレに使用するなど10日近くにわたりこの上ない不便を強いられた。市当局は嵐が去り、徐々に正常な生活に戻り始めた後も、いまだに凍死、一酸化炭素中毒死などの犠牲者の正確な数字を把握し切れておらず、時間がたつにつれて、死者数は、当初推定よりさらに増加するとみられている。

 しかし、同州が寒波襲来にさらされたのは、これが初めてではない。近年でも1989年、今世紀では2011年にも寒波に襲われ、州民たちの多くが、そのたびにピンチに立たされて来た。そして毎回のように、停電の際の他州からの電力緊急供給体制、天然ガス、水道管の凍結防止策など予期せぬ災害に備えたインフラ整備の重要性が指摘されてきたが、州議会議員、経済界含め州世論の大勢は、公的措置によらず「自助努力」を常に優先、その結果まともな改善策は後回しにされてきた。

 たとえば、2011年2月、同州を襲った寒波の場合、州内各郡の発電所193か所が天然ガスおよび重油配給管の凍結、破断などで運転停止を余儀なくされ、320万世帯が4日間にわたり停電に見舞われた。事態を重視した連邦エネルギー規制委員会(FERC)は同年7月、調査結果をまとめ、①同州電力供給の総元締め「テキサス電気信頼性評議会(ERCOT)」は事前に正確な寒波襲来の天気予報があったにもかかわらず、十分な備えを怠り、その結果として収拾のつかない規模の停電を引き起こした②平時においても重油、天然ガスともに緊急時に迅速に対応できるだけの備蓄タンクの備えがなかった③道路凍結に備えた緊急除雪体制は皆無に近い状態だった―などの点を指摘した上で、改善措置を講じるよう強く勧告していた。

 ところが、全国紙USATodayなどの報道によると、その後、いずれのエネルギー関連会社からも「寒波時対応策」「備蓄確保」などの改善措置を講じたとの報告もなく、旧態依然のままだったという。

 このようにテキサス州において、公共性の高いエネルギー関連サービスの問題点がとくに指摘されてきた背景として、市、郡、連邦政府の規制や介入を忌避する州独特の長年にわたる「Do It Yourself=DIY」精神や「自己流」思想がある。

 その典型例が、州特有の複雑きわまる電力関連会社組織だ。

 まず、一口に「電力会社」と言っても、「電力供給会社utility company」と「電力販売会社electricity company」が別々に存在し、経営者も完全に切り離されて存在する。

 このうち、各家庭に電力を届ける「utility company」の主なものとしては、「AEPTexas」「CenterPoint Energy」「Oncor Electric Delivery」「Texas-New Mexico Power(TNMP)」の4社があり、最大規模を誇るのが、1000万世帯を顧客に抱える「Oncor Electric Delivery」社だ。問題は、各社がそれぞれ独自に所有、維持管理する電柱、電線、変圧器を、今回のような突然の寒波襲来の場合に互いにサポートできる体制をとっていないことだ。

 また、これらの供給会社以外に、小規模ながら市町村が運営する公社、辺鄙な遠隔地に点在する「電力組合」も別途存在するものの、私企業との緊急時の連携体制は何もない。

 さらに、供給会社以外に、各家庭に「商品」としての電力を売却する「電力販売会社electricity company」が存在する。その数は驚くべきことに州全体で大小合わせ120社にも達しており、これらの会社は州内外の発電会社から卸売会社を通じて電力をまとめ買いし、各家庭や会社、事業所に切り売りする仕組みになっている。各社は「年間契約割引」「使用ピーク時間外割引」など独自の「商品」を用意、顧客獲得のため互いにセールス活動にしのぎを削ることになる。

 また、国際情勢の変化、原油市場での取引価格変動などによって料金も頻繁に上下する。今回の寒波襲来による大停電で一部の家庭では、通常1カ月の電気使用料金数百ドルのはずが、一挙に50倍近くの料金を請求され苦情が殺到する一方、これら電力販売会社の中には、価格急騰による売り上げ実績が跳ね上がり、社員に臨時ボーナスが支給され話題となったのも、こうした事情による。

 電力源となる重油、天然ガス会社も、電力ほどではないが、数多く存在し、激しい価格競争にさらされているのが実態だ。

 このようにテキサス州において、市民生活のライフラインに直結するエネルギー産業がいわば無秩序な状態で存在してきたのは、州法によるさまざまな規制の緩和が徹底して行われ、自由競争、自由放任主義がことのほか尊ばれてきたからにほかならない。

 ところがその一方で、非常時のエネルギー安定確保に備えた公的指導体制、規制措置は州議会で議案として上程されたとしても、そのたびに、廃案、先送りとされてきた。

 この点、ライフラインの中でも最も重要な位置を占める水道サービスについては、さすがにテキサスにおいても他州同様、企業化は今日に至るまで認められず、市町村など自治体の公営体制が維持されてきたが、今回は貯水池、貯水槽からくみ上げる肝心のポンプが凍結したため、結局400万世帯近くが1週間も水なし生活を余儀なくされる事態となった。

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