トイレの水に目くじらを立てたトランプ氏
アメリカでは20世紀後半から、富裕層が都会での犯罪増加を逃れ、郊外で安心安全な生活を享受するための、塀で囲まれた〝ゲート・コミュニティ〟(gated community)があちこちに出現してきた。重厚な門扉の詰め所に立つ守衛に用件を告げ車に乗ったまま中に入ると、居住区に至る側道に季節の花が咲き乱れ、チリひとつない掃き清められた小径がその先に続く。都会の騒音や悪臭とは完全に遮断された別世界であり、ゴーイング・マイ・ウェーの典型といえよう。
しかし反面、こうしたアメリカ人たちがおろそかにしてきたのが、公共の福祉・安寧にほかならない。「我関せず」の姿勢が、世界の先進国の中でもお粗末極まりないアメリカの公衆トイレ事情の遠因ともなっている。そしてそれは、トランプ前大統領が在任中、唱導した、諸外国への影響を顧みることなく自国利益のみを最優先にした「アメリカ・ファースト」主義とも無縁ではないだろう。
トランプ氏は、多くの国民が医療保険の恩恵に浴することを目指したオバマ政権時代の公的保険制度「オバマケア」にも強硬に反対し続けてきた。今日いまだに、国民皆保険制度が完備していないのは、先進国の中ではアメリカのみだ。
その彼は在任中の一昨年12月、記者団を前に「国民は使用後トイレを1回でなく10回も15回も流している People are flushing toilets 10,times, 15 times as opposed to once。結果的に水を無駄使いしている」と語り、大きな話題となったことがある。
プールにジャクージにサウナ風呂……自ら普段、フロリダの広大な別邸で水も使い放題の豪奢極める暮らしを続けてきた身にありながら、庶民がたまにトイレの水を1~2度流すことに目くじらを立てる世界一超大国最高指導者の、あまりにも突飛であさましい発言ゆえのホット・ニュースだった。しかし、大統領として1度足りとも、コロナ危機の最中に深刻化した公衆トイレ不足問題に言及したことはなかった。
アメリカ的利己主義の弊害は、残念ながら挙げるときりがない。
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