2024年4月20日(土)

Washington Files

2021年3月10日

アメリカにおける『トイレの政治学』

 同年12月、英国有力誌「The Economist」は早速、決定的不足状態にあるアメリカの公衆トイレ事情について、以下のような鋭い批判記事を掲載した:

 「アメリカにおける『トイレの政治学』にはそれなりの歴史がある。1950年代から60年代にかけて、とくに南部における『白人オンリー』のトイレをめぐり人種差別撤廃運動が広がり、70年代には、ハーバード大学キャンパスなどで有料トイレが貧困者差別だとしてやり玉に上がった。その一方で、9・11テロなどをきっかけとして政府関連公共ビル内の無料トイレはほとんどなくなった。この問題をさらに深刻化させたのが、コロナ危機だ」

 「トイレ・アクセスの否定は、人体に直接悪影響を及ぼす。水分を長時間体内にためることで尿管炎症を起こし、排便を我慢しすぎることで便秘、痔の原因となる。外での就労時間が長いタクシー運転手や、男性にくらべトイレ使用頻度の高い女性にとってゆゆしき問題だ。公衆トイレは設置、維持に金がかかり、また、好ましからざる人間行動の引き金になることも確かだ。しかし、コロナ危機で急増するホームレスや屋外での需要拡大にかんがみ、生理要求を保証することは、投票権ほどではないかもしれないが、多くの市民にとってどんなに救いになることか」

 また、米大手調査機関 Pew Research のニュースレター(2020年7月23日)は、コロナ危機を契機に公共図書館、ガソリンスタンド、集会所などが感染拡大を恐れ一斉に「トイレ使用禁止」措置を打ち出すに及んで、事態がいよいよ深刻化したとして、①シアトルでは小売店、ホームセンターなども含め数千カ所でトイレが閉鎖された。②他の都市でもスターバックス、マクドナルドなどのチェーン店で「お客様限定」の措置が打ち出され、ホームレスや貧困者が締め出されている。③メリーランド州などの州では放尿で現行犯逮捕された場合、罰金チケットをもらうだけでなく、「性的犯罪者」扱いされるケースも報告されている。④ニューヨーク市内では街のあちこちで放尿者が急増、公衆衛生上の大きな問題となっている――などと報じている。

 さらに以前なら、都会を練り歩く観光客が緊急事態に直面した場合、近くのホテルに駆け込むことができた。しかし、今や宿泊客のみに発行される専用カードなしにはトイレのドアが開かないシステムが圧倒的に増え始めており、部外者は路上で右往左往させられることになる。


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