2022年12月9日(金)

Washington Files

2021年3月10日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

独特の臭気が立ち込めるニューヨークの地下鉄

 もともとアメリカに公衆トイレがなかったわけではない。The Journal of Social History などの過去の文献によると、19世紀後半から20世紀前半までは各州政府が「市民のプライバシー保護、健康への気遣い」から公園など要所要所に〝緊急避難場所〟として設置する一方、個人経営のストアは「トイレあります」を売り文句に客を呼び寄せてきた。しかし、その後、自治体側は維持・管理費がかさみ過ぎることなどを理由に次第に撤退していくことになった。

 今日、ニューヨーク・セントラルパークは例外としても、サンフランシスコ中心部のユニオン・スクエア、ワシントンDCのフランクリン・スクエアなど、サラリーマンが昼時ランチ・バッグ片手にくつろぐ公園にはその施設はない。

 ニューヨークの地下鉄停車駅、ワシントン都心部とバージニア州、メリーランド州近郊を走るメトロの各駅などにも公衆トイレはどこにもなく、とくに冬場に寒気をしのいで乗り込んだ乗客はつらい思いをさせられることになる。放尿が常習化し、独特の臭気が立ち込めるニューヨークの地下鉄は、はるか前から日本の観光客にはオフリミットだった。

 それでもこうしたトイレ事情はこれまで、大きな社会問題として俎上に上ることはあまりなかった。ところが、昨年初めから始まったコロナ危機以来、米国市民の関心がいやが応にも高まってきた。感染拡大予防策の一環として「3蜜」回避が叫ばれ、レストランやバーに代わり、テイクアウトによる屋外での飲食需要が急増するにつれ施設不足の深刻さが露呈してきたためだ。

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