Washington Files

2021年4月26日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。近著に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

 米国での法人税、所得税徴収漏れが毎年、日本の国家予算に匹敵する1兆ドル(約108兆円)以上にも達していることがわかり、米議会が重大視、脱税、過少申告取り締まり強化策など従来の徴収システム抜本洗い直しのため、内国歳入庁(IRS=国税庁)関連予算増額に踏み切った。

(Nerthuz/gettyimages)

 「まさにjaw-dropping(顎が落ちる)とはこのことだ!」―去る13日、開かれた米上院財政委員会公聴会で、チャールズ・レティグIRS長官の説明に聞き入っていたロン・ワイデン委員長は、毎年、企業や高所得者による巧妙な税逃れなどによる徴収漏れが莫大な規模に上っているとの証言に怒りをあらわにし、徴収方法の抜本的見直しなどを緊急指示した。

 米主要各紙の報道によると、レティグ長官は公聴会で以下のように述べた:

 「過去のtax gap(徴収漏れ)に関しては、2011-2013年の3年間の実態調査があるが、当時は毎年4410億ドル程度とみられていた。しかしその後、状況は悪化の一途をたどっており、最近では毎年1兆ドルあるいはそれ以上に達しつつある」

 「悪化の要因のひとつとして、これまで徴収機能強化のための予算が削られ、とくに過去10年間に、査察官などの専門スタッフが1万7000人近くも減員となったため、企業や個人事業主などに対する期限内納税が徹底できなくなったことが挙げられる。さらに、税逃れのための海外タックスヘイブンへの資金分散、追跡の困難なビットコイン・ビジネスの増加なども無視できないレベルに達している」

 「近年、高所得者、企業による脱税、過少申告などの違法行為が巧妙化するにつれ、これに対処するため、優秀な『フロントライン査察官』6500人近くを特別に配置してきたが、納税義務者たちの手口はますます洗練化され、能力的においつけなくなりつつあるのが実態だ。彼らとの戦いに勝利するためには、予算を増額してもらう必要がある」

 こうした指摘を受け、ワイデン同委員長は「率直な問題提起に感謝する。とくに毎年1兆ドルもの徴収漏れがあるとはゆゆしき事態であり、早急に対策を講じる必要がある」として、当面の措置として、IRS関連予算を10%増額する方針であることを明らかにした。

 バイデン政権の諸政策にはこれまでことごとく反対してきた共和党内でも、同調の動きが出てきており、同委メンバーの一人、マイク・クラポ議員(アイダホ州)も「国の財政赤字が増大する中で、よこしまな野郎たちがこれほど大規模な脱税をやっていることは断じて許しがたい。ただちに抜け穴に栓をする必要がある」と述べ、予算増額を支持した。

 財務省直属のIRSは、納税者対応部門1万1400人、税収調査部門8680人、納税審査部門7900人、特別査察チーム2000人など全職員合わせ7万5000人(2019年データ)からなる大組織だが、2010年当時から比べスタッフ数で36%減、予算規模も年間117億ドルと、同年比17%減となった。その一方で、逆に①人口増、納税者申告件数増加②職種・ビジネスの多様化③企業経営のグローバル化④納税者家族構成の複雑化―などにより、業務の量的、質的負担は拡大の一途をたどってきた。

 法人税、個人所得税の徴収漏れの増加は、時代の流れに十分に対応できないIRSの人手不足に起因する部分が少なくない。 

関連記事

新着記事

»もっと見る