きつねの面の一行が、厳かに花岡宿の旧山陽道をパレードする。まるで昔話の世界のような“きつねの嫁入り”道中で知られるのが、毎年11月3日に山口県下松(くだまつ)市で開催される稲穂祭だ。
人力車に乗り、婚礼衣装を着用した白ぎつねの新郎新婦を中心に、紋付袴姿の親族やお供の子ぎつねなど50名ほどの嫁入り行列とともに、神輿(みこし)や山車(だし)、踊り手など総勢500名からなる御神幸(ごじんこう)の一行が、法静寺(ほうしょうじ)境内にある花岡福徳稲荷社から周防(すおう)花岡駅までの街道沿いを練り歩く。
「稲穂祭は古来、秋の実りに感謝するお祭りとして催されていました。きつねの嫁入りが実施されるようになったのは、昭和25(1950)年以降のことです。一般にお稲荷様ではきつねは神様のお使いと位置づけられていますが、福徳稲荷社は白ぎつねを神様として祀っているのです」
と語るのは法静寺の第25代住職となる見山洋昭(みやまようしょう)さん。
そのいわれは、享保9(1724)年、第10代住職の時代にさかのぼる。ある夜、法要を済ませた帰り道で数珠を失くして住職が困っていたところ、夢枕に白ぎつね夫婦が現れて、人間同様に弔ってもらえれば、数珠を探し出し、寺や地域の人々を守護すると語った。住職が目覚めると失くした数珠は枕元にあり、夢で告げられた場所で見つけた白ぎつねの亡骸(なきがら)に戒名をつけて手厚く葬ったという。以来、失せものが見つかるように願をかけたり、白ぎつね夫婦にあやかって良縁祈願に訪れる人も少なくないそうだ。
「祭りの見どころは、やはり御神幸ですが、周防花岡駅前での踊りや餅まきをはじめ、境内の特設舞台での岩国市の神楽団による山代神楽の上演、御神幸の締めくくりに福徳稲荷社の鳥居前広場で、白ぎつねの新郎新婦が三三九度の盃を交わす場面などもハイライトとなります。また、きつねの面を被った子どもたちの姿も大変可愛らしいですよ」
白ぎつねの新郎新婦役が誰なのかは、毎年秘密にされるのだとか。このあたりも祭りの持つ神秘的な雰囲気ゆえなのだろうか。
稲穂祭
<開催日>2012年11月3日
<会場>山口県下松市・周防花岡駅前、法静寺など(岩徳線周防花岡駅下車)
<問>下松市観光協会☎0833(45)1841
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