イスラエルとアラブの関係に楔
もう1つ忘れてならないのは和解の道を進み始めたイスラエルとアラブ諸国との関係に急ブレーキが掛かりかねない、という政治的な側面だ。イスラエルはトランプ米前政権の仲介で昨年、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコの4カ国と国交樹立で合意し、次の狙いをアラブの盟主サウジアラビアとの和解に定めている。
だが、今回の大規模衝突事件でエルサレム問題がクローズアップされることとなり、「アラブ人はイスラム教徒として、敵対者イスラエルの存在をあらためて噛みしめたのではないか」(アナリスト)。その結果、メッカ、メジナという2大聖地を抱える「イスラムの守護者」サウジとの和解の道が遠のいたことは確実だろう。
一方でイスラエルの不倶戴天の敵であるイランにとって今回の展開は悪いものではない。「エルサレムの日」に向け、イランの最高指導者ハメネイ師は「パレスチナ問題はすべてのイスラム教徒が責任を負っているが、パレスチナ人はジハード(聖戦)の中軸だ」とパレスチナ人を鼓舞した。
イランの支援を受けるハマスやレバノンの武装組織ヒズボラの指導者もハメネイ師と協調するようにイスラエル非難声明を出しており、3者の反イスラエル共闘が強化された格好。イランはイスラエルがイスラムの聖地を汚していることを強調することで、イスラエルとアラブ諸国との関係に楔を打ち込むことを狙っているようだ。対アラブ関係改善を進めてきたイスラエルのネタニヤフ首相にとっては今回の事態は大きな誤算につながるかもしれない。