2024年4月26日(金)

Wedge REPORT

2021年6月4日

日本の将来見据え
予算のポートフォリオ見直しを

 もとより独立財政機関は「魔法の杖」ではない。機能させるには、政治からの影響力を排する人事の独立性、予算や人材などの資源、技術的に高い分析能力などが前提となる。国際通貨基金(IMF)の独立財政機関データベースに基づき、筆者は、各国の独立財政機関の有効性を示す指数を作成した(下図)。オランダや英国の機関は指数が高いが、当然ながら、日本は低い。

(出所)国際通貨基金(IMF)の独立財政機関・データベースを基に筆者の基準で各項目ごとに評価
(注1)日本は財務省に設置された財政制度等審議会を想定して指数を作成。ポイントが高いほど独立財政機関が有効に機能するための条件が備わっていることを示す
​(注2)約30カ国を対象として分析した結果から抜粋して掲載  写真を拡大

 独立財政機関は、法律により設置されても、政治が〝耳障りな指摘〟を受け入れなければ機能しない。いわばセカンドオピニオンであり、企業経営で言えば、社外取締役だ。実際、09年に設置されたハンガリーの独立財政機関は、政府の財政運営の問題を指摘したことから、政治家たちの反発を買い、予算や権限を減らされ、10年には事実上解体に追い込まれた。

 つまり、法令で独立財政機関を規定しても、最後は「政治の意思」の問題なのだ。そのためには、独立財政機関は不偏不党の立場で経済や財政を分析していることを議会や国民に示し、両者の信頼や名声を得ていくことが不可欠である。

 例えば、英国の財政責任局は、11年11月と16年3月、政府がその財政目標を満たしていないことを指摘し、それを受けて、政府は財政政策を修正した。独立財政機関の最大の効果は、政府とは異なる立場で数字を提供することであり、ひいては政府(財政当局)への牽制になることである。

 コロナ禍の収束が見えない状況ではあるが、我々はコロナ後の財政運営の持続可能性にも目を向けなければならない。「財政再建」が最終目的ではないが、我々は借金を背負う将来世代のことも考えなければならない。

 大事なことはコロナのみならず、社会保障や激変する安全保障環境など、日本の将来を見据えた上での予算のポートフォリオの見直しである。それは、予算制約を認識し、施策の評価や検証を行い優先順位をつけることだ。〝大盤振る舞い〟を続けていて、国民が安心できるだろうか。予算制度改革、なかんずく独立財政機関の設置とそれを有効に機能させるために必要なこととは何か、検討を始めるべきである。

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■押し寄せる中国の脅威  危機は海からやってくる
Introduction  「アジアの地中海」が中国の海洋進出を読み解くカギ
Part 1         台湾は日米と共に民主主義の礎を築く        
Part 2       海警法施行は通過点に過ぎない  中国の真の狙いを見抜け  
Column    「北斗」利用で脅威増す海上民兵
Part 3       台湾統一  中国は本気  だから日本よ、目を覚ませ! 
Part 4     〖座談会〗 最も危険な台湾と尖閣  準備なき危機管理では戦えない
Part 5       インド太平洋重視の欧州  日本は受け身やめ積極関与を
Part 6       南シナ海で対立するフィリピン  対中・対米観は複雑
Part 7         中国の狙うマラッカ海峡進出  その野心に対抗する術を持て

  
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◆Wedge2021年6月号より

 

 

 

 

 

 


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