2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年5月31日

steved_np3 / Barks_japan / iStock / Getty Images Plus

 5月6日に行われたスコットランド議会選挙では、スコットランド民族党(SNP)が総議席129のうち64議席を獲得して勝利した。引き続き政権(4期目)を担当し、党首の二コラ・スタージョンが引き続き首席大臣(2014年以来現職)を務める。単独では過半数に及ばなかったが、同じく独立を目指す緑の党の8議席を加えると過半数となり(保守党は第二党で31議席)、スタージョンは「独立の可否を問う再度の住民投票のマンデートを得た」と述べた。住民投票を認めることを拒否しているジョンソン首相との綱引きが始まる。もっとも、直ちに政治的対決となる訳ではなく、危機に向けて長いヒューズに火が付き、ゆっくりと燃え始めたということである。

 2014年の住民投票では、賛成:45%、反対:55%で独立は否認されたが、再度の住民投票の要求は、Brexitの直接的な結果である。即ち、2014年には想定されなかった事情の変更を背景としている。住民投票の実施にはウエストミンスターの英国議会の承認が必要であるが、ジョンソンおよび保守党が拒否を続ける場合には、スタージョンはスコットランド議会で住民投票のための立法を強行し、ジョンソンにそれを受諾するか、それともその適法性について最高裁判所で争うかの選択を迫るであろうとの観測も見られる。

 ジョンソンはスコットランドで嫌われている。保守党としては、出来る限り拒否を続け、英国にとどまることの利益を説き、開発資金をスコットランドに投ずることを戦略とするのであろうが、何時までも住民投票を求めるスコットランドの多数の意向に逆らうことは正しくないとの意見もある。それは、「そもそも連合は同意に基礎を置くものだと」の見解によるものらしい。

 イングランドのナショナリズムやBrexitに対するスコットランドの感情がどうであれ、独立はスコットランド自体および英国全体にとって甚だしく不利益であろう。世論調査による独立に対する賛否はいずれも40%台で賛成が僅かに上回る程度であり、住民投票の結果は予断出来ない。しかし、住民投票に決するのであれば、スコットランドの財政(ロンドンの支援がなくなれば赤字となる)、通貨(2014年に財務省がポンドの使用は認めないとしたことがある)、貿易(60%は英国向けである)、石油・ガス資源の分割などの枢要な問題について明確な理解が住民の間で共有されることが必須である。EUに加盟したい希望であるが、実現までの間の移行期をどう克服するかの問題もある。

 なお、スコットランドには英国の2つの枢要な軍事基地が存在する。一つはゲア・ロックのクライド海軍基地である。ここは核ミサイルを搭載する4隻の原子力潜水艦の母港でもある。SNPは独立の暁には核兵器を除去したいとしている。もう一つは北東部のロジーマス空軍基地である。ここはユーロファイターの部隊とポセイドン対潜哨戒機の部隊の基地である。スコットランド独立によってこれらの基地がどうなるかは、英国だけでなくNATOの戦略に重大な影響を及ぼすことに留意する必要がある。

  
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