世界の記述

2021年3月25日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 スペインの王室や警察への批判を続けるラッパー歌手、パブロ・ハセル氏(33歳)が2月16日に逮捕されたことを受け、同国内で解放を求める抗議デモが連日行われた。第2の都市バルセロナでは、若者のデモが暴徒化し、銀行や商店が破壊や強奪の被害に遭った。

暴徒化したバルセロナのデモ隊。背後にはコロナ禍による社会不安がある (SOPA IMAGES/GETTYIMAGES)

 ハセル氏は、ラッパー活動に加え、自らを反ファシストで共産主義者と位置づける。一部の若者たちからは、抗議活動家としても知られ、人気を集めていた。同氏は、2014年頃から過激な歌詞でラップを奏で、権力者を挑発。数度にわたる禁錮刑を命じられてきた。16年には過激な歌詞で地元の市長を攻撃し、禁錮1年3カ月を言い渡されたが、文化人やファンが「表現の自由」を訴え、市長を退陣に追い込んだ。

 また、スペイン王室を皮肉る曲の中で、ハセル氏は20年に汚職疑惑によりスペインを出国した前国王フアン・カルロス1世を「何年間も何億円ものカネを盗み、浪費してきた……」と批判。「何度も不倫してソフィア(妻の前王妃)を虐待してきた……」とも歌っていた。

 10日間の出頭期間を与えられたハセル氏は、彼のファンとともに地元の大学に立てこもったが、数日後に逮捕された。直後、彼の解放と表現の自由を求める抗議デモが、スペイン全土に波及した。

 平和的にデモ活動を行う人々がいる一方で、北東部カタルーニャ州の数都市では、若者数百人が暴徒化。バルセロナの中心地では、ゴミ箱やバイクを燃やし、警察と衝突したほか、多くの銀行に火をつけ、ATMを破壊した。

 その後も、マフラーで顔を覆う若者たちの暴動は続いた。高級ブティックが並ぶグラシア通りでは、75店舗のショーウインドーが破壊され、12店舗からは多くの物品が強奪された。被害総額は、7万5000ユーロ(約9600万円)に上ったという。

 サンチェス首相は「スペインは確立された民主主義国家だ。暴力は許し難い」と非難。カタルーニャ州のアラゴネス次期首相は「ハセルの解放を願う人たちと、強奪のためにデモを行う人々は無関係だ」との区別を明確にした。

 言語学者のジョルディ・アマット氏は、地元紙バングアルディア紙への寄稿文で「若者の10人に4人が無職」とした上で、暴徒化の背景には教育や経済格差の広がりが影響していると分析した。新型コロナウイルス感染症によるロックダウンで、彼らの生活は厳しくなり、不満は蓄積される一方だ。今回の騒動は氷山の一角にすぎないだろう。

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