世界の記述

2021年1月28日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 スペイン下院は昨年12月17日、長年にわたる議論を経て「安楽死法案」を賛成多数で可決した。カトリック信仰が篤い国で安楽死が認められるのは欧州では初めてとなる。

安楽死法案はひとまず支持を得て議会を通過したが…… (EPA/JIJI)

 賛成198、反対138で法案が可決されると、国会では賛成票を投じた与党・社会労働党や急進左派ポデモスなどの議員が立ち上がって拍手喝采した。サンチェス首相は「大きな社会的克服」であるとし「自由と尊厳における進歩である」と力説した。

 一方、同法案は医療費節約のためだとして反対する最大野党・国民党や極右政党ボックスの議員らは「国民、医療、社会の敗北だ」と主張した。

 安楽死を希望する患者は「15日間で2回の申請」を行い、「医師2人と審査委員会の承諾」を得るなどし、最短40日で実現が可能。死に方は、次のいずれかの方法になる。

 一つは、医師に致死薬を投与してもらう「積極的安楽死」。もう一つは、医師から処方された致死薬を服用するか、点滴内に含まれた致死薬を自ら体内に流入させる「幇助自殺」だ。

 欧州では、オランダが「要請に基づく生命の終結および自殺幇助法」を法制化した2002年以降、ベルギーとルクセンブルクも続いて容認。スイスとドイツでは「自殺幇助」のみが可能となっている。

 スペインでは、26年間、寝たきり生活だった全身麻痺の男性が恋人女性の助けを受け、1998年に死亡した事件が映画化され、世界的な注目を浴びた。最近でも、神経難病の妻を幇助し、死に至らせた男性の裁判が継続中で、安楽死議論は絶え間なく続いてきた。

 同国の2019年の世論調査によると、国民の87%が「回復の見込みがない患者は、医師に致死薬をお願いする権利がある」と考えている。そのうちの多くは敬虔なカトリック信者でないことも明らかになり、世俗化の進行も浮かび上がった。

 安楽死議論に真っ向から対立してきたスペイン聖職者協会は、法案可決後、「疑わしいくらい早い決断」と非難。「国民の意見や対話を無視し、パンデミックと非常事態宣言の合間に(法案可決を)進めた」と政府を批判した。

 だが一方で、死の自己決定権を人間の尊厳と主張するスペイン尊厳死協会のハビエル・ベラスコ会長は「安楽死を強要するのではない。これは義務ではなく、権利だ」と国民に強調した。

 世界では、安楽死容認に向けた動きが着実に進んでいる。だがこの権利が人間の自由や尊厳を本当に保障できるのか。明確な答えが見つからないのが現状だ。

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