世界の記述

2020年10月23日

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宮下洋一 (みやした・よういち)

ジャーナリスト

在欧ジャーナリスト。1976年生まれ。スペイン・バルセロナ大学大学院でジャーナリズム修士。『卵子探しています』(小学館)で小学館ノンフィクション大賞優秀賞。『安楽死を遂げるまで』(同)で講談社ノンフィクション賞を受賞。近著に『ルポ・外国人ぎらい』(PHP新書)がある。
 

 米ホワイトハウスは9月4日、旧ユーゴスラビアのセルビアとコソボが経済関係正常化に合意したと発表した。

Oleksandr Filon / iStock / Getty Images Plus

 トランプ大統領は同日、セルビアのブチッチ大統領とコソボのホティ首相と三者会談を開き、経済協力に向けた署名式を行い、こう述べた。

 「残忍で暴力的な歴史と、長きにわたる交渉の失敗を経験した。米国は分断を克服するための新たな道を提案した。歴史的合意だ」

 旧ユーゴスラビア時代、コソボはセルビアの自治州だった。1998年、独立を求める「コソボ解放軍」がユーゴスラビア(セルビア)と武力衝突し、北大西洋条約機構(NATO)軍がユーゴを空爆したコソボ紛争が勃発、数千人の死者や数十万人の難民を生んだ。2008年、欧米諸国や日本はコソボ独立を承認したが、セルビアやロシアなどは認めていない。

 経済関係正常化の合意には、セルビアとコソボ双方の交通網整備などが盛り込まれ、両国の首都、ベオグラードとプリシュティナの空港間の発着が21年ぶりに再開する見通しだ。

 だが一筋縄ではいかない面もある。今年6月に退任したコソボのクルティ前首相は地元テレビ局KTVで「この交渉はまだ1ページ半しか実現の可能性がない」と指摘。「コソボ市民がセルビアに入国できる身分証明書もないのに航空会社はどう対応するのか」と反発した。

 またイスラエルでも動きがあった。ネタニヤフ首相はコソボとの外交樹立を表明した。セルビアも在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移す予定だったが、セルビア外交筋によると「イスラエルがコソボを独立国家と認めるならば、セルビアは大使館を移転しない」と強調。「そうなれば、両国の外交は悪化し、二度と元に戻れない」との声が出ている。

 ではコソボ紛争で米国に加担し、78日間の空爆を続けた欧州連合(EU)は、どのような対応を示しているのか。

 ボレルEU外交安全保障上級代表は、英紙フィナンシャル・タイムズに対し「バルカン半島に安定をもたらせるのは、EUだけである」と述べ、米国の一方的外交戦略に対抗する構えを強調した。EUは現在、バルカン半島にルーマニアなど多数の加盟国を有し、セルビアと隣接している。

 情勢がなおも不安定なバルカン半島だがこの先、トランプ大統領の戦略が功を奏すのか。あるいは、EU主導による地道な外交路線に軍配が上がるのか。両者の政治力争いに注目が集まっている。

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■トランプVSバイデン  戦の後にすべきこと
Chronology  激化する米中の熾烈な覇権争い      
Part 1        21世紀版「朝貢制度」を目論む中国  米国が懸念するシナリオ          
Part 2          激化する米中5G戦争  米国はこうして勝利する   
Part 3          選挙後も米国の政策は不変  世界情勢はここを注視せよ          
Part 4          変数多き米イラン関係  バイデン勝利で対話の道は拓けるか
Column 1   トランプと元側近たちの〝場外乱闘〟     
Part 5          加速する保護主義  日本主導で新・世界経済秩序をつくれ
Part 6          民主主義を揺るがす「誘導工作」  脅威への備えを急げ
Part 7          支持者におもねるエネルギー政策  手放しには喜べない現実
Part 8        「新冷戦」の長期化は不可避  前途多難な米国経済復活への道    
Column 2     世界の〝プチ・トランプ〟たち
Part 9        日米関係のさらなる強化へ  日本に求められる3つの視点      

  
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◆Wedge2020年11月号より

 

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