世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年1月29日

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 スペインでは昨年4月に総選挙が行われたものの、はっきりとした結果が出ず、連立政権交渉は失敗、11月に行われた、やり直し選挙でも事態は大きく変わらず、8か月間も麻痺状態が続いてきた。それが、ようやく1月7日に、下院での投票の結果、サンチェス首相が信任を得て社会労働党と急進左派ポデモスとの連立政権が発足することとなった。スペインでの連立政権は、1930年代以来のこととなる。

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 投票結果は、賛成:167、反対:165、棄権:18で、2票差の勝利であったが、ここに漕ぎ着けるまでにサンチェスはカタルーニャの分離主義政党ERCとバスクの分離主義政党EH Bilduの棄権を取り付ける必要があった。このため、中道右派の野党・国民党のカサード党首からは、「彼らはトロイの木馬だ。彼らの要求を充たそうとすればスペインは破壊される、要求に応じなければサンチェスが街頭に放り出されるだろう」と罵声を浴びたという。

 票の差は2票であるが、賛成票にはスペイン東部のテルエル県の議席1の地域政党Teruel Existeの1票が含まれている。彼が反対に回っておれば連立政権は成立しなかった。彼は賛成を公言して以降、裏切り者呼ばわりする脅迫メールに見舞われ、彼には警察の護衛が付いた由である。これもスペインの政治の分裂の一断面である。

 成立した政権は、少数連立政権である。社会労働党とポデモスとの波長が合っているとは言い難い。サンチェスとポデモスの党首イグレシアス(副首相になる)との関係には不安がある。従って、前途は多難である。多難ではあるが、この政権は案外長続きするのではないかとの観察もある。スペインの憲法の定めによれば、内閣の不信任が成立するためには後任首相が定数350の下院の絶対多数である176票を得て信任されることが必要とされているが、野党陣営がまとまって176票を確保することはサンチェスが167票を集めるよりも困難と見られるというのがその理由である。

 もう一つ連立政権にとって有利な材料があるとすれば、ERCにしろEH Bilduにしろ、地域政党にとって、地方自治の縮小・廃止あるいは中央集権化を目指す右派の諸政党は支持の対象にはなり得ず、選択を迫られればこの政権との連携を選ばざるを得ないだろうとの事情である。

 最大の難問はカタルーニャの問題である。サンチェスは国民党のカサードなど右派の諸政党が煽っている「有毒な雰囲気」を終息させる、と述べている。サンチェスがERCと合意した内容は、報道による限り、拘束力のある住民投票に至るような内容の合意ではなく、曖昧な内容のものであるらしい。合意がスペインの解体につながるというようなものではない。サンチェスに期待されることは、対話で緊張を緩和し分断を修復する方途を見出し、スペインの政治的平静を回復することである。

  
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