2024年4月19日(金)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2021年6月6日

プーチンの「本当の狙い」

 ロシアのサイバー攻撃に関して、看過できない点がもう1つあります。なぜロシア政府は、米ロ首脳会談開催の直前になっても、米国に対するサイバー攻撃を止めずに、逆にエスカレートするのを傍観しているのでしょうか。

 今回の首脳会談の目的を「ロシアとの関係を予想可能で安定的なものに回復させる」と発表したバイデン政権をあざ笑うかのように、ロシアのハッカー集団はサイバー攻撃を継続しています。

 サキ報道官は6月2日の定例記者会見で、記者団の質問に対して「バイデン大統領はプーチン氏がハッカー集団によるサイバー攻撃を止めさせることができると考えている」と答えました。ただ、プーチン大統領はバイデン氏から見返りなしにハッカー集団を抑え込むことは決してしないでしょう。

 プーチン氏は首脳会談でハッカー集団のサイバー攻撃停止を「交渉カード」として使い、ロシアに対する制裁解除を求めてくる可能性があります。バイデン政権は米金融機関にロシアとの金融取引を一部停止させ、同国に制裁を課しているからです。

 翌3日の会見ではサキ報道官は、バイデン大統領のロシアへのメッセージに関する記者団の質問に対して「責任のある国は身代金を要求する犯罪者をかくまうことはしない」と、これまでの回答を繰り返しました。そのうえで、「責任のある国はランサムウエアのネットワークに対して断固たる行動を起こさなければならない」と、警告を発しました。ロシア政府とハッカー集団との協力関係の証拠はつかめていません。

 しかし、ハッカー集団による米国へのサイバー攻撃はプーチン氏にとって、確実にプラス要因になっています。ガソリンに加えて、食料品の価格も高騰し、米国民の不満が一層高まれば、バイデン政権を弱体化に追い込むことが可能だからです。首脳会談前にバイデン氏にダメージを与え、会談を有利に進めようとするプーチン氏の意図があってもまったく不思議ではありません。

 プーチン氏の「本当の狙い」は「制裁解除」と「バイデン政権の弱体化」とみてよいでしょう。

 これに対して、バイデン大統領もプーチン氏の「ディール」に容易に応じるとは到底思えません。バイデン氏はロシアへのさらなる報復措置をちらつかせて対抗するでしょう。


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