2024年4月26日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2021年6月15日

台湾へワクチンを運んだ日本航空のスタッフと一緒に写真に写る謝長廷・台湾駐日代表(右から2人目)=台湾代表処提供

 台湾に日本から提供された新型コロナウイルスのワクチンは、台湾社会で歓喜をもって迎えられ、日本外交のクリーンヒットとなった。計画が表面化してから10日ほどで実現するというスピーディな行動が際立った。日本の素早い行動の背景に何があったのか。台湾とどのような交渉が行われていたのか。台湾の大使にあたる謝長廷・台北駐日経済文化代表処代表らからワクチン提供に関する相談を受けていた、超党派の国会議員でつくる親台湾派の議員連盟「日華議員懇談会」の古屋圭司会長(衆院議員)に事情を聞いた。

古屋圭司氏=筆者撮影

野嶋:台湾へのワクチン提供ですが、5月24日に謝長廷駐日代表、米国のジョセフ・ヤング駐日臨時代理大使、そして、安倍晋三政権で首相補佐官などを務めた薗浦健太郎・衆院議員が集まった食事会が、目黒の駐日代表公邸で開かれました。そこで日本側からワクチン提供の提案があったということが日本のメディアで報じられています。古屋会長が知っているところでは、実際にワクチン提供の話はいつごろから動き出していたのでしょうか。

古屋:5月の中旬ぐらいだったと思いますね。5月24日の食事会の1週間ぐらい前からでしょうか。

野嶋:しかし、アストラゼネカとモデルナのワクチンの使用が厚労省から緊急使用の承認を受け、しかも、アルトラゼネカのワクチンは当分使わないと決まったのは5月21日でした。

古屋:方向性はその前から聞いていましたらので、だったら台湾に出せるね、ということで、では、どのぐらい出せるのかかという話を、水面下で議論していました。謝長廷代表との相談のなかで、6月中旬までに届かないと、台湾の事情もあってワクチン提供の有り難みが薄まってしまう、ということでしたので、これはスピードで勝負しようと。日華議員懇談会の事務局長をやっている木原稔さんがたまたま菅内閣の総理補佐官という立場にあったので、彼とも相談しながら、どうやったら一番早く台湾にワクチンを出せるか検討していきました。

野嶋:ワクチンを各国に配分するCOVAXは使わないことにしたのですね。

古屋:COVAXは「嫁入り先」が決められないんです。台湾のワクチンが手薄なのは確かなので結果的には、COVAXからいずれ台湾に届いたかもしれません。しかし、スピードが問題で、時間がかかりそうでした。もう一つ、日本赤十字を通じて提供するという手もありましたが、これもちょっと時間がかかる。一番優先したかったのは時間なので、結局、直接出すのがいいだろうとなりました。その際、仮に公表が1カ月後になってもいい、という考えもあったんですが、最終的には日本からワクチンを運び出す前日の夕方に公表したんです。6月3日です。これはもう中国がいくら妨害しても止められないというタイミングでした。目立ってはだめなんです。多くのことを水面下でやらないとならなかった。

野嶋:分量についてはどうして124万回分だったのでしょうか。数字として、もっとわかりやすい、キリのいい量ではないのが気になりました。

古屋:最初は100万回分という話だったのですが、台湾側からは300万回分にしてほしいという要望がありました。ただ、日本であのタイミングで確実に確保できるのは124万回分だったんです。それが限度でした。

野嶋:第一三共製薬がアストラゼネカから届いたワクチンの原液を瓶詰めすることになっていたはずですが、その作業に時間がかかったのでしょうか。

古屋:急にはなかなかできないんですよ。日本で開発した製品ではないですから。(第一三共製薬は)委託を受けているけれど、完全な生産ラインではないので限界があるんです。

野嶋:それにしても提供までのスピードには驚かされました。失礼ですが、日本政治にこんな効率のいい決定や行動ができるのかと。

古屋:謝長廷代表ができるだけ早く送ってもらえるとありがたいとおっしゃったので、私は「クリスマスケーキが12月28日に届いても意味がないってことですね、プレゼントの価値が薄れるということですね」と確認しました(笑)。台湾側は6月中旬までと言っていたので、6月10日ぐらいかなと思っていたんですが、予想より1週間早かったですね、大したもんですよ。米国は75万回分のワクチンを議員団が台湾で表明しましたが、まだ届いていません。日本は現物が届いていますから、効果は大きかった。それでも台湾でワクチンが足りないので、もっと欲しいという話が来たとしたら、私たちは速やかに対応しようと思います。

野嶋:安倍晋三前首相が動いた、あの人が動いたなど、いろいろなストーリーが出ていますが、実際はどうだったのでしょう。

古屋:自民党がチームワークでやったんです。オールジャパンの賜物です。だからこそ、政府もこれはやらなきゃと本気になった。そこには安倍晋三前首相の姿もあった、ということです。功績争いの必要はないんです。みんなが動いてくれたということが、中国の圧力をはねのけ、外務省の背中を押して、こうした対応ができたんです。日華懇では、中国の介入を警戒して目立つ行動はできるだけ控えて汗をかくことを徹底していましたが、木原稔・総理補佐官がよくやってくれました。何しろこれは最終的にNSC(国家安全保障会議)マターでしたから。


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