2024年11月22日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2021年6月15日

信頼、絆、困った時に助け合う

野嶋:台湾へのワクチンを東日本大震災への恩返しという意識は最初から共有されていたのでしょうか。

古屋:確かに200億円の恩返しという意識はあります。それに加えて、新型コロナでもこの1年間、台湾に日本は助けられてきたんです。昨年4月16日に日本がまったくN95マスクがないときがありました。そこで蔡英文総統が直接、N95マスク200万枚を提供してもいいですよ、とおっしゃってくださった。私たち日華懇が、全国の感染症指定病院、それと特別支援学校に行き渡るように手配したんです。政府を通すと3週間ぐらいかかってしまうから、日華懇が受け取って大手の運送会社に依頼して、1週間で配り終えました。200万枚はジャンボ輸送機1機分です。マスクは軽いけど、かさばりますから。すごい量でしたね。

 私は空港まで取りに行きました。そのなかに手紙を入れて、台湾総統府のメールの宛先を書いておいたら、なんと2000通ぐらい届いたらしい。これこそ、信頼、絆なんですよ。困った時に助け合う。中国みたいに困った時に足で踏みつけるようなことではないんです。台湾からは医療用の防護服も5万着いただいた。こちらも、日本はなくて困っていたんです。医療機関は消毒剤で洗濯して干してもう一度使っていた。こういう恩義もあるので、中国の妨害でワクチンが台湾に届かないのは極めて深刻な問題ですから、日本が頑張って提供しようということになりました。

野嶋:自民党にも中国に配慮する人がいますが、台湾へのワクチンはちょっと待ってという声はなかったのでしょうか。

古屋:これは人道的な支援ですから、まったくないです。しかも、参議院はWHO総会への台湾の参加を求める決議をしましたからね。中国は民進党の蔡英文総統になって急に台湾のWHO総会へのオブザーバー参加を認めなくなった。馬英九政権では認めていたのに。地理的、政治的、人種的な差別はあってはいけないと、健康という普遍的な原則に基づいて運営されるべきだとWHOの憲章に書いてあります。国民党で参加を認めて、民進党で認めないのは、WHO憲章違反ですよ。2300万人の人口を抱える台湾が、最初の1年間以上コロナを押さえ込んできた。その台湾の知見は広く世界に知られるべきです。

野嶋:それにしても、中国への反発が予想されるなか、台湾にこうした支援をするというのは、ひと昔前では実現はなかなか難しかったと思います。

古屋:我々の求めに、政府もちゃんと応えてくれるようになりました。背景には、米国も欧州も中国の最近の常軌を逸した動きに対して警戒感が強くなってきたんです。習近平さんも強引にやりすぎたんでしょう。でも中国は変わりませんよ。台湾統一の考えは1ミリを変わらないでしょう。着々と目標を決めてやってきています。一党独裁の強いところです。ですから、我々の周囲の国々が力をあわせて台湾を支えないといけないのです。

野嶋:親台湾を掲げてきている日華懇の国会や政府に対する影響力が強まっているように感じますが、いまの会員はどのぐらいでしょうか。

古屋:いま300人ぐらいです。中堅・若手が進んで参加してくれて、会員は増えています。昔は年寄りが多い逆三角形だったんですが、いまは逆になりましたね。台湾が身近になって、支えるべき友人と考えてくれているんでしょう。あえて国といいますが、台湾は民主国家ですから。安倍首相時代に共通の価値観を持つ国々との連携を外交戦略の基本にしてその影響が広がったんでしょうね。当選してきた新人議員のほぼ8割が日華懇に入ってくれます。

  
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