「来年の接種」に
向けて教訓を生かせ
相馬市や港区のような好事例には必ずといっていいほど、行政や地元の医療従事者のなかに有事に強いキーマンの存在がある。
一方、昨今では有事への対処として、一部地域で個別接種がうまく機能していることを礼賛する報道が見られるが、果たしてこうした動きが、根本的な解決策になるのだろうか。
2009年の新型インフルエンザ流行時に医師会でワクチンの集団接種を行い、今回も集団接種の実施を管内自治体に提案した大阪府富田林医師会理事の藤岡雅司医師はこう指摘する。
「緊急かつ大規模にワクチンを接種するには安全性と迅速性の両方を担保することが必要だ。とりわけ今回の新型コロナではmRNAワクチンという今まで使用経験のないワクチンを使う。例えば、医師1人のクリニックでアナフィラキシーに対応できる体制が本当にとれるのか。『これまで定期接種を行っているから大丈夫』という意見も多いが、従前より取り扱いの難しいワクチンを個別接種するには不安が大きい。何より、感染症対策は国民の生命を守る安全保障にかかわる事業だ。道路を1本はさんだ市町村ごとで接種体制が異なることも問題だ」
さらに、臨時接種の実施主体が市町村になっている現状にも、藤岡医師は次のような懸念を示す。
「市町村は基礎自治体として住民から直接クレームを受ける立場にある。よって、もし安全性と迅速性を両立する実施方法が別にあったとしても、日常的に実施している定期接種と違う接種体制を選択することは難しい。国は予防接種法第6条第2項の規定どおりに当初から都道府県に指示するべきだったのではないか。今になって、防衛省や都道府県が各地で大規模接種を実施しているが、接種を開始する前の戦略策定が杜撰だったと言わざるを得ない」
ワクチンの効果の持続期間は不透明で、来年度も新型コロナワクチンを多くの国民に接種する可能性がある。
前出の武井港区長は「今回、市町村がワクチン接種の実施主体になることについて、国から事前の相談や打診はなかった。接種を毎年していくことになるなら、国として全国民を対象とした接種体制はどのようなものが望ましいか、そのためにどのような準備が必要なのか。自治体との連携策を含めて早急に示してほしい」と語る。
別の問題もある。今後は、高齢者よりも比較的時間の取りづらい就労世代にも接種を進めていかねばならない。
前出の野田助教授は「政府は、平日など予約の埋まりにくそうな日時で接種する人には『Go Toポイント』などの一定の報酬を与えることや、 予約が取りやすいよう、 経済界に対してワクチン休暇の取得を広く勧奨していくことも効果的だ」と提案する。
ワクチン接種は国の総合力を示すものと言ってもいい。だが、日本は、こうした国家的事業に対してもなお、平時の思考で対応し、現場の人たちの奮闘によって、何とか持ちこたえているのが現実だ。これは、コロナ禍における医療現場や保健所など、あらゆる場面で見られたことと同じである。
危機はコロナだけに限らない。有事をタブー視することなく、日本を、当たり前のことを当たり前のようにできる国にしていかなければならない。
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