目標の実現に向けた戦いは続く
15年、自然之友が長年目指してきた環境保護法の改正が実現し、環境保護団体が原告となって汚染企業を訴える「環境公益訴訟」が可能となった。自然之友は弁護士として、馬栄真さんを採用。北京大学大学院法律研究科出身の馬さんは「環境法治」に共鳴し、大手法律事務所の内定を蹴って自然之友を選んだ。
同年10月、馬さんは山東省の大手化学企業による大気汚染案件を担当。水質や土壌の汚染と違い、大気汚染の証拠集めは極めて難しく、調査は行き詰まった。馬さんは地元の環境保護局なら汚染企業の排出データを把握しているはずだと考え、情報開示を請求した。しかし、資料の閲覧はできてもコピーは禁止され、メモすら許されなかった。さらに、環境保護局の職員が調査のことを汚染企業に通報し、話し合いで事を済まそうとまでした。地元経済を支える企業を政府が庇うという構図が、馬さんに立ちはだかった。
馬さんは企業の周辺住民の声を集めるなど調査を続けた。さらに、現地の環境保護団体の力を借りるなど、独自のネットワークで企業の排出データを入手した。それらを訴状に書き入れ、裁判所に提出したが、裁判官の言葉に馬さんは「環境法治」の難しさを痛感させられた。
「汚染問題は地元政府が解決すべきで、司法にはそれを促す程度の力しかない」
翌年1月、裁判所主導で、企業はおよそ5000万円の賠償金を支払い、「和解」することになった。環境公益訴訟で大企業に賠償金を支払わせることに初めて成功したものの、馬さんは「公開裁判によって世の中に広く知ってもらうことができなかった」と悔しさを滲ませた。
その後、馬さんは香港大学の博士課程に進み、「国家体制が環境法治にもたらす影響」をテーマに研究に打ち込んでいる。裁判所の意思決定プロセスを検証し、実現可能な改善策を提言。また、国家による環境保護団体の管理は厳しすぎると、規制緩和の必要性も唱えている。自然之友は環境保護への責任を果たさない行政に対しても提訴できるよう、さらなる法整備を目指している。
■資源ウォーズの真実 砂、土、水を飲み込む世界
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土
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水
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