2回のワクチン接種率が6月末の時点で47.2%となった米国では、ほぼすべての州で規制が解かれ、旅行や大人数でも会食なども可能となっている。これまでの長いロックダウンや規制の反動でもあるかのように、この夏には旅行者が急増しそうな勢いだ。
すでに5月のメモリアル・デーの週末でも各地で渋滞などが見られた。コロナのために帰省などを控えていた人たちも、今年は地上だけではなく空の旅を楽しもうとしている。空港によっては今年5月の時点でコロナ前の2019年5月と比較しても2割も利用客が増えた、というところもある。
ところがこの好況に水を差すのが圧倒的な人手不足だ。昨年、経済的に最も大きなダメージを受けた航空業界では、多くの離職者が見られた。航空会社の職員だけではなく、空港の検査要員、空港内のレストランや店舗従業員など、コロナの影響は多岐に渡った。国際空港評議会による試算では、米国の空港の減益は総額で400億ドルにも及ぶ見込みだという。
筆者も昨年から今年にかけ何度か日米間を往復したが、今年始めまでは空港はガラガラで深閑としていた。免税店やラウンジなども全て閉まっていたし、空港で食べ物を買うにも不自由な状況だった。ところが今年5月に米国に戻った時には久々に入国管理で長蛇の列となり、空港内も送迎の車で渋滞していて非常に驚いたものだ。
米政府はこれまで航空業界に対し巨額の支援を行ってきた。航空会社が雇用を維持するための給与支援が総額で540億ドル、空港施設全体への支援額は200億ドルを超える。そこまでマイナスに沈んでいたものが、今一気にプラスに転じようとしているのだが、問題は失った雇用の回復だ。
米連邦政府の組織であるTSA(運輸保安庁)では、手荷物検査などを行う保安要員を9月末までに6000人確保する必要がある、としており、新規雇用者に対し1000ドルのボーナスを支給する、と発表した。それでも応募者は予想よりも少なく、各地の空港では検査に長い列が出来るために「出発の3時間前には空港に到着することを勧める」という告示を行っている。
空港内の店舗、レストランも同様だ。これまで店が閉められたりあるいは撤退したりしていたものが、一気に需要増に転じた。しかもほぼ同時にすべての店舗が求人を行っているため、まさに従業員の取り合い状態になっている、という。ダラス・フォートワース空港では空港当局がテナント店舗オーナーに対し「他店の従業員の引き抜きは控えるよう」通告を出した、との報道まで飛び出している。
空港店舗が相手にしなくてはならないのは空港内の店舗だけではなく、通常営業が解禁となった一般のレストランや店舗も含まれる。米国の5月の失業率は5.8%で、昨年5月の13%から大幅に改善した。今年5月に新規に職を得た人は60万人近くに及ぶが、うち半数がレジャー旅行業界への就職だった、という。
元々空港内店舗は従業員を集めるのに不利な立場にある。空港は都市郊外の通いにくい場所にあるのが普通だし、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ニューヨークなどの大都市圏では空港周辺の道路は常に渋滞している。さらに多くの空港では従業員用駐車場は空港の外にあり、そこからシャトルバスなどで通う必要がある。
このため人を集めるには周辺の一般的な店舗やレストランよりも高い賃金を提示する必要があり、それが価格に跳ね返る。空港内ではマクドナルドやスターバックスのようなチェーン店でも一般の店舗よりも価格が高く設定されているのが普通だ。
そして航空業界も然り。連邦政府の支援金のお陰で一時帰休ながら給与の一部を支給されていた従業員に対し、通常業務に戻るよう呼びかけているが、反応は鈍い。アメリカン航空は7月前半の国内線を全体の1%減らすスケジュールを発表したが、これも従業員不足で需要に応じられないためだという。