2024年7月16日(火)

DXの正体

2021年7月31日

機械学習、AIとの出会い

著者と曽我部さん

 倉庫・物流事業の経営は部下に任せ、文系・法学部専攻の曽我部さんはフレミングの法則や電流、電圧など、電気に関する初歩を、まさに0から徹底的に勉強した。

 帰国した兄の力も借りながら、メガソーラー施設の設計など、徐々に仕事がとれるようになった

 しかし、当時は震災前で「FIT」のような太陽光発電ブームが起きる前。それほど大きく事業が伸びることはなかった。ただ、震災後数年すると、事業は順調に成長するようになった。

 ちょうどその頃のことだ。「2014年頃でしたが、アルゴリズムをつかって、自分たちの発電所の電気が、系統にどのくらい流れるのか計算(予測)できたら、なんとなく面白そうだと考えたんです」。

 この時も、独学で数学などについて学び、気象庁の予測データなどから気象予測モデルを構築した。「1年半くらいやっていたとき、アルゴリズムを書いてできればいいなと思いました。あとで振り返ると、これが機械学習、AIにつながりました」

 この後、知り合いのエンジニアなどに声を掛け、様々な試行錯誤をした。兄が研究者ということもあって、アカデミアにいる人材の興味、関心をビジネスにどう結び付けるかという勘所が分かっているのも曽我部さんの強みだ。

 「実際、これがどんなビジネスにつながるかはよく分かっていませんでした。POC(概念実証)地獄にもはまりました。結果として、画像認識はしたけれど、作業員を数人減らせただけというような事も多かったです……」

 それでも、18年に開催されたAIの展示会で、「大手道路会社さんの目に留まったんです。『渋滞を予測したいんだけど、やれる?』と言われて、『やったことないけど、やりたいです』と」。この出会いが、現在につながる「『インフラライフイノベーション』を理念として、AIの予測技術、最適化」をサービスとして提供するグリッド社の現在の姿につながるきっかけとなった。ちなみにこのときの取り組みは、それまで渋滞予報士が行っていた数ヶ月先の渋滞予測をAIに予測させるもだった。

 このように、グリッド社ではプラットフォームや先進的なAI技術の独自開発、エネルギーや物流など社会インフラ分野を中心に、AIを用いたソリューションを提供して様々な課題を解決してきた。昨今では、従来のパターン認識技術では導き出すことが困難な課題に対して、深層強化学習や新しいAI技術である最適化技術を活用している。

 さらに、量子コンピュータが実用化される世界を見据え、アルゴリズムの研究開発も進めているという。これらの原動力になっているのは曽我部さんの「感性と実行力」「人柄と好奇心」と言えるだろう。

 第3次AIブームが終焉を迎えようとしている。少し前までは、AIといえば最先端で万能、新たな未来を切り開く技術のように扱われてきた。しかし、今、AIに対する過熱的な状況は落ち着き、すべてのビジネスにAIを利活用し、世の中を不可逆的に進化させる時がきている。

 デジタルツインは、AIを活用することで精度高いシミュレーションの結果を得ることで、ビジネスの判断に影響を与えビジネス自体のかたちを変えようとしている。まさしくDXだ。

 日本は、デジタル化で欧米に後塵を拝した。このデジタル化は情報化社会『Society4.0』の構築であるがゴールではない。実はデジタルツインなどの先端技術を用いて超スマート社会『Society5.0』の実現を図ることが最終目標である。次世代の日本がグローバルに存在感を持ち、リードしていくことができるかどうかは『Society5.0』を実現できるかどうかにかかっている。

 現実(フィジカル)と仮想空間(サイバー)が同期する世界(CPS;サイバーフィジカルシステム)の出現で、私たちが今まで考え及ばなかった効率化や高度化が起きると思われる。カーボンニュートラル達成、再生可能エネルギーの適時生産をはじめ、1次産業の省力化から新しい生活様式まで、革新が一気に現れるであろう。CPSは、真に豊かな社会を実現するに違いない。そして、そのための強力な武器がデジタルツインと私は考えている。

 グリッド社は『Society5.0』実現に向けた道筋を着実に歩んでいる。人々が豊かに暮らす未来づくりに貢献することを期待したい。

 DXの正体は、画期的な情報関連技術を展開することではなさそうだ。それはDXを先導するリーダーの未来を構想する力と事業を創造する真摯な情熱(Integrity)であり、情報に関する好奇心とチャレンジではないだろうか。

  
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