「優勝して、初めて目が悪くなった自分を受け入れることができました。俺って目が見えなくてもいていいんだと思えたのです。それに『行動しなけりゃ何も変わらないんだ』ということがわかりました。それからは変わろう。自分から積極的に行動しようと思うようになっていったんです」
平成17年11月27日、初瀬勇輔は「第20回全日本視覚障害者柔道大会」90キロ級に出場し、見事優勝を遂げた。それまで支えてくれていた仲間たちから優勝後に胴上げをされた。
目が見えなくなり、もう一度柔道をしようと決断し、大会出場までの過程があり、優勝という結果が生まれた。視覚障害者となった初瀬にとって初めての成功体験だった。
空手から柔道へ
高3の時には県大会3位に
机やイス、段差や階段を使うにも不自由さを見せない。また聞き手である私たちの表情を窺いながらインタビューに答えているかのような、細やかな気遣いまで感じる。「初瀬さんとお話ししていると目が不自由だということを忘れてしまいますね」という私の言葉に「よくそれ言われるんですよ、でも本当はたいへんなんですよ。あっははは!」という笑いが返ってきた。その骨太な明るさに誘われて、思わず私たちまで笑ってしまった。声に落着きがあり顔立ちも温和だが、肩幅の広さが並みではない。さすがに全日本視覚障害者柔道90kg級で7連覇(2005~2011年)を遂げ、2012年大会の81kg級王者である。
初瀬勇輔。1980年長崎県に生まれる。
「小さいころからあまり身体の大きな方ではなくて、幼稚園の頃はよく泣かされているような子でした」。性格的にもかなりおとなしかったようだ。しかし、小学校高学年になると友人が通っていた近くの空手道場に「俺も強くなりたい」と通い始めた。
しかし、進学した中高一貫の青雲中学・高校には空手部がなく、しかたなく「似たような(?)」という理由から柔道部を選択。始めてみると自分は空手よりも柔道に向いていると感じ好きになっていった。しかし、顧問や周りからは「強い」と評価されていたにもかかわらず、試合ではなかなか勝てなかった。
「当時練習と試合では、まったく動きが違うと言われていました。試合になると緊張し過ぎてしまうんです」