世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年8月17日

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 8月1日、ミャンマーの国営メディアは、国軍によるクーデターにより成立した暫定軍事政権の首相に、これまでも同政権を率いてきたミン・アウン・フライン司令官が就任することを報じた。クーデターによる権力掌握から6カ月にして暫定政府の長たる首相の肩書を得たことになる。今回発足した暫定政府が、クーデター直後に発足した国家統治評議会を置き換えることになる。

 この動きには、権力掌握の既成事実化を強める意図があるのは言うまでもないことであろう。ミン・アウン・フラインは、2023年までにミャンマーの緊急事態を解除し、選挙を実施するとも約束した。しかし、反対派は、ミャンマーの民主主義を回復するようにとの国民と国際的な圧力を無視してきた過去の軍事政権の長い歴史に言及し、ミン・アウン・フラインの約束を全く信じていない。

 ミャンマーでは昨年11月8日の連邦議会の総選挙で、アウン・サン・スー・チーの国民民主連盟が、476議席中396を獲得して圧勝した。この状況を受け入れられないミン・アウン・フラインは、本年2月1日クーデターを敢行し政権を掌握、2023年までの緊急事態宣言を発出した。これに対し、ミャンマー国民や武装グループが激しいデモを繰り返している。

 クーデターとその後の緊急事態宣言は国際的な非難を招いている。日本政府は2月1日「ミャンマー国内情勢について」という外務大臣談話を発表し、緊急事態が宣言され、民主化プロセスが損なわれる事態が生じていることに対し、重大な懸念を表明した。バイデン大統領は2月11日、ミャンマー国軍による権力掌握を受けて、ミャンマーへの制裁に関する大統領令に署名した。

 ミャンマーの最近の政情の基調はアウン・サン・スー・チーの国民民主連盟と軍部との対立である。軍部は以前からアウン・サン・スー・チーの活動を警戒してきたが、アウン・サン・スー・チーが昨年11月の総選挙で圧勝したのち、軍部を改めて強く非難したことを受け、クーデターを敢行したものである。

 ミャンマーでは過去軍事政権の長い歴史がある。憲法に規定により連邦議会では議員の25%が国軍司令官の指名枠となっている。そのためアウン・サン・スー・チーの国民民主連盟は、希望する憲法改正ができない。アウン・サン・スー・チーの国民民主連盟と軍部との対立は、今後とも続くと見なければならない。アウン・サン・スー・チー側も支持者が「統一政府」の樹立を宣言し、市民保護の名目で「国民防衛隊」の発足を宣言するなど、対立はエスカレートしている。一歩間違えれば内戦にすら陥りかねない。

 外交的承認を求める政権とクーデター反対派の闘争は、国連の場でも行われると思われる。ミャンマーのキョー・モエ・トゥン国連大使は、2月の国連総会で軍事政権を非難する演説を行い、軍事政権側は同大使の解任を発表した。しかし、キョー・モエ・トゥン大使はその後も、それを無視する形で職務に留まっている。

 8月6日にはニューヨークで、キョー・モエ・トゥン大使を殺害することを企てた容疑で、2人のミャンマー人がニューヨークの連邦検察により逮捕された。軍事政権の何らかの関与が疑われる。仮に関与が事実であるならば、軍事政権は規範意識に著しく欠けたものとして対応せざるを得ない。

 日本はミャンマーと歴史的に密接な関係にある。太平洋戦争中は、ミャンマーが戦場の一部となった。英軍との激しい戦いで知られるインパール作戦はビルマで行われたものである。戦後日本は贖罪の意味も兼ね、ミャンマーに多大なODAを供与するとともに、民間レベルの経済協力も推進した。ヤンゴン近郊のティワラ地区では、三菱商事、住友商事、丸紅などが工業団地を造営している。

 ジェトロによれば、2020年末現在ミャンマーには日本の企業433社が進出している。 

 その日本にとって、アウン・サン・スー・チーの国民民主連盟と軍部との対立は憂慮すべき事態である。日本はミャンマーの軍部と意思が疎通できる関係にある。ミャンマーの情勢に懸念を表明するだけにとどまらず、ミャンマーの軍部に対し強く働き掛けていく必要がある。

  
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