世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月28日

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 軍事政権に抵抗するミャンマーの市民が非暴力主義を捨てて暴力による抵抗に転換したことにより、軍事政権と市民との戦いが新たな局面を迎え、ミャンマーは無政府状態に陥る危険性が増しているように見える。

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 平和的な抗議デモに対する国軍・警察による無差別な発砲を含む残虐な弾圧が市民の怒りを呼び、市民は目標と戦術を変えることになった。彼らは、自衛と報復の必要性を語り始め、自警団あるいは民兵を組織するに至った。非暴力の不服従運動から劇的に転換して暴力による抵抗が始まった。当初はパチンコ、狩猟用ライフル、間に合わせの武器で武装していたが、どういう調達の手段を講じたのか詳細は不明だが(少数民族経由かも知れない)、徐々により精巧な武器を手にすることとなり、爆弾による警察署、銀行、政府庁舎などの爆破(合計で300件以上)、オートバイを使った銃撃などが拡散することとなったようである。

 彼らの目標は、もはやクーデタを覆すことにとどまらない。彼らの抵抗は革命的な色彩を濃くし、国軍に代わる連邦軍を構想するに至った。それは、ビルマ族による支配を排除した多様な民族構成を持つ、文民の統制下にある新たな軍である。5月5日、国民統一政府が国民自衛軍の創設を公表した。6月7日には軍事政権をテロ・グループだと宣言した。

 ミャンマーの民主主義にとっていずれ国民自衛軍は必要なものであろうが、今は紙に書かれた構想に過ぎない。少数民族との軍事的連携にその兆しはあるが、未だ整っている訳でもない。少数民族とビルマ族との関係は単純ではあり得ない。国軍の暴力に対抗して全国各地に自発的に組織されることとなった自警団・民兵組織がその指揮命令系統の下に置かれるに至っている訳でもない。

 35万人の国軍の力は圧倒的であるので、この新たな暴力による抵抗がどの程度の成果をあげられるかは疑問ではある。カチンやカレンなど少数民族がどう動くかという問題はあろうが、彼らの武装勢力とて8000程度と言われる。その結果は血生臭い手詰まりである。その間、ミャンマーが破綻国家への道を辿る危険は従来に増して大きくなったように思われる。

 外交は手詰まりである。ASEANは頼りにならない。4月のASEAN首脳会議で「5項目のコンセンサス」に至った。5項目の内容は次の通りである。

(1)市民を対象とする暴力行為を即時停止し、全ての関係者が最大限自制する。
(2)平和的解決策を目指し全ての関係者間での建設的な対話を開始する。
(3)ASEAN事務総長の協力を得てASEAN議長の特使が対話プロセスの仲介を行う。
(4)ASEANは、ASEAN防災人道支援調整センター(AHAセンター)を通じて人道的支援を行う。
(5)ミャンマーはASEAN特使の派遣を受け入れ、特使は関係者全員と面会する。

 しかし、国内の対話を促すことをミッションとするASEAN特使の任命すら出来ていない。国軍のミン・アウン・フライン司令官は「国内の安定が回復してからのことだ」と言っているから、ASEANに真面目に付き合う積りはなさそうである。せめて、MOGE(ミャンマー石油・ガス公社)を制裁の対象とし、軍事政権に対する圧力を高めることは検討されるべきであろう。MOGEはトタル、シェブロン、タイのPTTEPとともにヤダナの天然ガスプロジェクトを所有している。

  
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