2024年11月22日(金)

オトナの教養 週末の一冊

2021年4月27日

4月19日、国軍に抗議するヤンゴン市民(AP/AFLO)

 ミャンマー情勢に国際社会の耳目が集まっている。2月1日の軍事クーデター以降、民主化を求めるデモは全国に広がったが、国軍は徹底的な武力弾圧を断行。犠牲者はどこまで増え、ミャンマーはどうなるのか?

 先行きが読めないのは、ミャンマーという国自体がよくわからないせいだ。

 1948年の独立後は内戦で混乱し、62年から約半世紀は閉鎖的な軍事政権が続いた。民政に移管して、内情が少しずつ明らかになったのはここ10年ほどにすぎない。

『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』河出書房新社。春日孝之。1961年生まれ。ジャーナリスト、元毎日新聞編集委員。1985年に毎日新聞社入社。 95~96年、米国フリーダムフォーラム財団特別研究員としてハワイ大学大学院(アジア・中東史)に留学。 ニューデリー、イスラマバード、テヘラン支局などを経て2012年よりアジア総局長。翌年ヤンゴン支局長を兼務。18年退職。 ボーン・上田記念国際記者賞で4回の候補(イラン、ミャンマー報道でそれぞれ最終候補)。 イラン報道では早稲田ジャーナリズム大賞最終候補。 著書に『アフガニスタンから世界を見る』(晶文社、日本エッセイスト・クラブ賞最終候補)、 『イランはこれからどうなるのか 「イスラム大国」の真実』(新潮新書)、『未知なるミャンマー』(毎日新聞社)がある。

 『黒魔術がひそむ国 ミャンマー政治の舞台裏』は、毎日新聞のヤンゴン支局長として民政移管後のミャンマーに3年間滞在した春日さんが、占星術などの「占い」でミャンマー社会を裏面から読み解こうとした意欲作。

 「執筆のきっかけは何でしょう?」

 「大統領の生年月日が国家機密、と知った時ですね。大統領に限らず政府要人は、黒魔術による呪いを恐れて生年月日を公表しない。世界各地で取材してきても、そんな国は初めて。占いと政治の関わりを探れば、ミャンマーを理解する糸口になると思いました」

 こうして、当時のテインセイン大統領の生年月日を巡る取材を開始。首都がヤンゴンからネピドーに秘密裡に遷都した経緯と占星術の関係なども含め、一冊にまとめた。

 春日さんは本書で、今回のクーデター劇の主役2人、NLD(国民民主連盟)党首アウンサンスーチーと国軍総司令官ミンアウンフラインの双方にインタビューしている。

 「この本で特徴的なのは、スーチーへの辛口批評ですね。日本や欧米では“民主化の闘士”と称賛されているけれど、実際は情報統制したり自分への権力集中を闇雲に図るなど相当に専制的? 本人も“父親譲りの短気で怒りっぽい性格”と認めていますね」

 「ええ。“建国の父”のアウンサン将軍の娘なので特別扱いされていますが、私は彼女は政治家には向いていないと思います」

アウンサンスーチーから去った側近たち

 春日さんによると、クーデター前のスーチー政権は、その前のテインセイン政権と比べると経済が停滞し、懸案の少数民族武力勢力との和平も進展しなかった。有能な側近をことごとく排除してしまった結果と言える。

 「クーデターの発端もそうです。昨年11月の総選挙のNLD圧勝に、国軍側が不正を主張し調査を求めた。ミャンマーの選挙に不備は付き物なので、スーチーも調査くらい認めればよかった。ベテランの側近がいればそう助言したはず。ところが、スーチーはニベもなく拒否した。国軍はメンツ丸潰れです」

 ミンアウンフライン総司令官は、テインセイン時代から国軍と二人三脚のミャンマー式民主主義を積極的に推進してきた人物。

 しかも現行の憲法の下では、国家危急時には国軍総司令官が全権を掌握することになっている。

 それなのに要望を全否定されたとなると、独立以来国政に深く関与してきた国軍の指導者としては、断固介入せざるを得ない。


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