2024年4月17日(水)

知られざる高専の世界

2021年11月6日

IT好きが集う“遊び場”

 こうして突如スポットライトを浴びた彼らの共通項は、木更津高専情報工学科の米村恵一准教授のラボ(Yone-labo)に出入りしていたこと。高専では4~5年生が研究室に所属するが、正式に所属していたのは5年生(大学2年生相当)だった小高さんのみ。

 他のメンバーは、よく遊びに来る常連の後輩で、ラボがたまり場になっていた。そこで「こんな大会があるけど(決勝に進めば、白浜に旅行もできるし)出てみるかい?」と彼らを誘ったのが、仕掛け人・米村准教授というわけだ。
 
 最年少で当時16歳だった丸山さんは、このコンテスト出場が転機になったと振り返る。「元々ITに興味があり、米村研究室には学生が自由に触れるサーバーやネットワーク機器があったので、授業の合間を縫って通っていました。大会に出たのは、このときが初めてでしたが、普段サーバーを構築したり、プログラムを書いたりして身に付けたことが、サイバーセキュリティーを守ることにつながるのだと実感しました。そこから、積極的に他の大会や講習会にも参加するようになりました」。

「Yone-labo」には学生たちが自由に触れられるサーバーやネットワーク機器が並ぶ。ここが彼らの〝遊び場〟だった(木更津高専提供)

 一方、当時すでに卒業研究でもサイバーセキュリティーについて取り組んでいた小髙さんは、かつてマルウエア(不正に作動するウイルス)に感染してしまった経験から興味を持つようになったという。

 「授業で習うことは土台で、そこから先は自分の興味で伸ばすことで、ようやく実用的なレベルに達すると思います。セキュリティーを守るには、攻撃の視点も知る必要があるので、知識を深めるうちに、自分が扱う技術の重みを感じるようになりました」と話す。

他の高専にも展開し全国レベルで人材育成

 つまり有機的に結成されたこのチームは、たしかにコンテストに照準を合わせていたわけではないのだが、日頃培った技能と関係性の上に成り立っていた。米村准教授は学生たちが力をつけていく様子を「勝手に伸びていく」と表現する。

 もちろん野放しではなく、早い時期から社会との接点を持ってほしいと、外部講師を招いた演習会や、IT企業見学会などの機会を積極的に設けてきた。「まずは興味を持ってもらうため」と話す。

 そして、興味を持ったことを突き詰められる自由な時間も、高専生ならではの特典かもしれない。中学卒業後5年間一貫の高専では、基本的に大学受験の必要がない。その猶予を最大限に生かした自主性のある学生が、最強のホワイトハッカー集団の正体と言えるだろう。大学でもセキュリティーについて学んだ齋藤さんも、「高専時代に自由に学べた経験が大きかったですね」と振り返る。

 だが、たまたま優秀な学生がそろった、では終わらない。米村研究室では次につながるアウトプットも出している。Yone-laboメンバーが“遊び倒した”と話すサーバーなどの機材は、国立高等専門学校機構サイバーセキュリティ人材育成事業(K-SEC)の予算で米村准教授が設置したものだった。彼らが楽しみながら試行錯誤していたことが、実は演習教材の開発につながっていたのだ。
 
 木更津高専を含めK-SECには5つの拠点校があり、独自に開発した教材を全国の高専に展開している。外部の専門組織とも連携し、最新動向を反映した高度な技術教育を行うなど、「質」を重視したトップレベルの人材育成に注力している。

 一方、情報系以外の高専生にもセキュリティー意識・技術を身に付けさせることで「量」の拡大も目指している。木更津をはじめとする全国の高専生が、日本企業のセキュリティーを率先して守る日も遠くないだろう。


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