その前提にたって、米国議会はその4カ月後に米国内法である「台湾関係法」を成立させ、台湾に対し、防御用の兵器を供与することをコミットした。そして、実態として「台湾関係法」の存在こそが、今日、この地域の軍事バランスを維持し、平和と安定を保つうえでかけがえのない要素となっている。
軍事バランスを維持させている「戦略的曖昧性」
今日の蔡英文政権は、台湾はすでに主権の確立した独立国(中華民国〈台湾〉)であるとの立場であるが、あえてそのことを前面的にだして、中国をいたずらに挑発することを避けるために、中台間の現状維持を守りつつ、対等・平等な話し合いによって中台間の諸問題を解決したい、との立場を崩していない。「中華民国と中華人民共和国は互いに従属した関係にはない」というのが最近の蔡英文が強調している点である。
なお、バイデン政権下、カート・キャンベル(インド太平洋調整官)は本年5月、「戦略的明確さ(strategic clarity)」にはいくつかの重大な欠陥が伴うとして、「台湾独立」を全面的に議論することは、米中関係を極度に悪化させる恐れがあるとして「戦略的曖昧政策(strategic ambiguity)」を続けることを主張している。
上記のような諸点より見て、今回のバイデン大統領の「米国は台湾防衛にコミットしている」という表現は、最近の中国の台湾への高まる軍事侵攻の可能性を考えれば、「戦略的曖昧政策」にあたるものであり、この言葉通り受け止めればいいのではないかと思われる。