10月12日付の英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)社説が、台湾を巡る緊張激化は破滅的な紛争になるとして、米中を含む全ての者の常識と慎重さが必要だと主張している。
FTの社説は、台湾を巡る緊張激化が米中などの軍事衝突になる危険を懸念し、全ての者に常識と冷静さを求める。やや喧嘩両成敗のような議論に若干違和感を覚えたが、子細に読めば、(1)平和と安定の必要性は、妥協せねばならないということではない、2300万の住民の民主的権利は、貿易などの取引の譲歩と引き換えにされるべきではない、(2)台湾海峡の選択は、ギリギリの現状維持か、破滅的な紛争かの選択であることを指摘し、中国にも釘を刺したということであろう。なお台湾住民の民主的権利が貿易などとの取引に使われることはあり得ないと思うが、社説の正確な意味は分からない。
それにしても最近の中国の軍事的示威行動は常軌を逸している。強く懸念される。50を超える軍用機を一度に台湾の防空識別圏(ADIZ)に飛来させるなどというのは、尋常でなく、国際規範にもとる行動であり、危険な遊びと言わざるを得ない。
FTの社説は、中国軍用機の大量侵攻が台湾東方海域での米日英加などの演習への反応だったように述べるが、それは中国の行動の言い訳にはならない。演習海域は公海であり、台湾海峡の航海も国際規則に従ったものだ。
抑々現下の状況は、ここ数年にわたり中国が南シナ海等への支配強化と島嶼の軍事化を国際裁判所の決定等国際法規を無視して進めていることなどから始まったことを忘れてはならない。
中国は核保有国家であり、また、米中共に相互の抑止力は働いており、そう簡単に直接軍事衝突に向かうとは思えない。しかし誤算による衝突リスクは常にある。中国は核保有国家として、また大国として挑発的な行動を差し控える政治的責任を負っている。核保有国家は軽々な行動は差し控え、もっと慎重な行動をするべきだ。
中国の習近平総書記は10月9日、辛亥革命110周年記念大会で演説し、台湾について「祖国の完全な統一は必ず実現しなければならない歴史的任務」、「台湾問題は中国の内政問題であり、いかなる干渉も許さない。国家主権と領土保全に関わる中国人民の断固とした意志と強大な能力を過小評価すべきではない」と述べた。しかし今回は武力行使の発言はなく、その意味では抑制的だった。
台湾の蔡英文総統、10月10日、双十節の演説を行い、「我々の主張は現状維持だ」、「我々は攻撃的にはならない、台湾の人々が圧力に屈すると決して考えてはならない」、「台湾と中国は互いに従属しない、主権は不可侵で併合できない、台湾の将来は台湾の住民の意思により決定されねばならない」と述べた。