2024年11月22日(金)

お花畑の農業論にモノ申す

2021年11月9日

困ったときのスマート農業頼み?

 戦略の中身はどんなものなのか。それを端的に言い表しているのが、9月の国連食料システムサミットに菅首相(当時)が寄せたビデオメッセージだ。世界のより良い「食料システム」を構築するために3点を重視すると述べたうえで、こう続けた。

「第一に、『生産性の向上と持続可能性の両立』です。このための鍵となるのは、イノベーションやデジタル化の推進、科学技術の活用です。我が国は、5月に策定した『みどりの食料システム戦略』を通じ、農林水産業の脱炭素化など、環境負荷の少ない持続可能な食料システムの構築を進めてまいります」(ビデオメッセージより)

 実際、85ページにわたるみどり戦略には「イノベーション」「技術革新」という言葉が頻出する。首相のメッセージ通り、花形として登場する技術はIoTやロボットを活用する「スマート農業」が多い。たとえば「化学農薬の使用量低減(リスク換算)に向けた取組」の中には、下記のようなスマート農業技術が盛り込まれている。

・ドローンによるピンポイント農薬散布
・AIなどを活用した病害虫の早期検出技術
・除草ロボットの普及
・AIなどを活用した土壌病害発病ポテンシャルの診断技術

農林水産省「みどりの食料システム戦略」より 写真を拡大

 スマート農業による技術革新も大事ではある。しかし、戦略を読むと、困ったときの神頼みとばかりに、スマート農業の潜在性に戦略の成否を賭けていると感じてしまう。

技術が未確立という問題

 もちろん、スマート農業一辺倒ではないのだが、そうした目標の中にも首をひねってしまうものがある。たとえば、50年までの「土壌微生物機能の完全解明とフル活用」がそうだ。農薬と肥料の散布低減のために掲げられた目標だ。土壌微生物の専門家が集う学会では、参加者から「完全解明が何を指しているか分からない」という指摘があった。

 農林水産省技術会議事務局によると「植物の生育に関わる土壌微生物の動きを徹底解明し、土壌微生物の機能だけで食料を増産する」そうだ。もし実現すれば、化学肥料を使わなくても農作物が育つ未来が来ることになる。

「英知を結集して解決に取り組んでいこうというもの。30年までにプロトタイプを作って、残り10年で社会実装を目指す。50年までには社会で一般的になっている状態にしたい」(技術会議事務局)

 そもそも、土壌中には膨大な微生物がいる。1㌘に3000種類ほどと推定され、それぞれの果たす役割は謎だらけだ。そんな状態から、果たして2050年までに“完全解明”に到達できるのだろうか。

内閣府が破壊的イノベーションの創出を目指して設けた「ムーンショット型研究開発制度」の「ムーンショット目標5」に「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出」と掲げられている 写真を拡大

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