2024年12月11日(水)

お花畑の農業論にモノ申す

2021年11月9日

有機農業をとりまく環境の未成熟さ

 みどり戦略には細かな問題だけでなく、大きな欠陥がある。最大の問題は、有機農業がなぜ今に至るまで0・5%にとどまっているかの分析も、対策もないことだろう。過去10年間で、面積は0・4%から0・5%になったに過ぎない。

 一般にはあまり浸透していないが、06年、有機農業の推進を目的に「有機農業の推進に関する法律(有機農業推進法)」が成立している。それまで有機農業への公的な支援はなく、推進のための法制度ができたのは画期的だった。しかしその後も、有機農業は大きなうねりにならなかった。

 有機農業が広まらない理由はいくつかあるけれども、何と言っても技術が確立されていないことがボトルネックだろう。農薬や化学肥料を使わないために、土の養分が偏りやすいし、病虫害が生じやすくなる。研究者が少なく、農家の経験に根差した技術がさまざまあるものの、科学的な裏付けに乏しい。一般的に農家への技術指導は、都道府県の農業普及指導員やJAの営農指導員が行うが、有機農業を指導できる人は極めて少ない。

一部には、認められた化学合成農薬も

 最後に、日本の有機農業が抱える根本的な問題を紹介したい。よく欧米で有機農業が普及しているのを理由に、「日本でももっと拡大できるはずだ」と安易に言い切る人がいる。が、日本には、有機農業を広めるにあたって不利な環境上の条件がある。高温多湿で病虫害が発生しやすく、雨が多いために土壌中の養分が流出しやすいということだ。

 山梨県北杜市で37㌶でキャベツやレタスなどを栽培する梅津鐵市さんは、慣行栽培に加え、有機栽培や減農薬・減化学肥料栽培などを手掛けてきた。有機食品の検査認証制度である有機JASが1999年にできるにあたって、農水省が検討のために設置した委員会の委員を務めた。今の基準、つまり化学的に合成された肥料や農薬を使わないと示されたとき「本当にこんなことやるのって言った」と振り返る。

 梅津さんは、自然界に存在する物質ではあるが化学合成された資材の一部を、使えるようにすべきではないかと話した。農水省担当者の回答は「それを認めると、わけが分からなくなる。できるだけ、分かりやすくしたい」というものだった。

 その実、化学合成された農薬でも、一部は使用が認められている。たとえば硫酸銅と生石灰を混ぜたボルドー剤がそうで、ブドウ栽培で広く使われる。欧米をはじめ、使用を認めないとそもそもブドウ栽培が成り立たないという事情があったらしい。

「ボルドー剤が適用除外されたと聞いて、そんなのフランスの身勝手だろうと言ったんだ。日本は高温多湿なんだから、その理屈でいうと、いくつか追加で農薬を使えるようにしたらいい。そういう主張を、国際会議の場でしたらいいと言ったんだけど」

 梅津さんは当時開かれていた有機農業の国際会議に出ていた有機農家にこう意見したと回顧する。

有機25%目指すなら基準の見直しを

 有機JASは、国際的な食品規格の策定などを行うコーデックス委員会が1999年に定めた「有機的に生産される食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン」に準拠した資材のみ、使用を認める。ガイドラインの制定は、欧米主導で進んだらしい。有機農業を本当に25%に拡大するなら、今の有機JAS基準の見直しは避けて通れないはずだが、今のところそういう議論はされていない(※)。

 有機農業は本来、環境にも人にもやさしい農法であるはずだ。ところが実際には、有機農業の核となる資材である堆肥も、施し過ぎれば環境を汚染するし、土壌病害の原因にもなる。堆肥だけで土壌の養分バランスを整えるのは、難しい。有機農業の山積する課題と取っ組み合う気概は、残念ながらみどり戦略からは感じられないのである。

※みどり戦略の掲げる25%は、有機JAS認証を受けないけれども認証と同等の栽培をする面積も含む。ただし、認証がないとそもそも有機を名乗ることができず、栽培方法が果たして有機に準じているかも担保されない。そのため、認証のない面積を大幅に増やすメリットは薄いと思われる。
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