鐘声の論評は12年初めからこれまで、尖閣の領有権を中国の「核心的利益」と述べたり、武力行使の可能性に触れるなど、過激な発言を続けてきたおり、衆院選後の軟化は顕著だ。
一方13日付の人民日報系列紙、環球時報は、日中の経済関係の早期修復を呼び掛ける評論を掲載。日系企業で働く中国人約100万人を「“愛国”の犠牲にするべきではない」「中日の経済関係の早期活性化は主権の放棄や歴史を忘れることでは決してない」と強調した。
一方でタカ派論調も
しかし、一方で17日付の同紙が掲載した社説はタカ派の論調であり、安倍氏との交渉について「中国は安倍政権の善意のシグナルに知らぬふりをするべきではないが、決してこちらから急いで関係改善を求めてはならない」「釣魚島で軍事対立が起きるのを防ぐため、中国は安倍政権と協議を行うべきだ。しかし、中国が釣魚島の海域と空域で実際のプレゼンスを強化する趨勢を保持することが前提だ」と主張した。
中国指導部の中には、外交・経済を担当するハト派と、軍部や国家海洋局などタカ派の対立がある。今後、どちらの主張が優勢になるのか、まだ予断は許せない。
中国の程永華駐日大使は11月30日、共同通信本社で行われた「共同通信加盟社論説研究会」で講演し、尖閣問題について「対立が長引けば長引くほど両国にメリットはない。話し合いを通じての解決を期待している」と関係改善を呼び掛けた。
また、程大使は衆院選翌日の12月17日、主要メディアの編集幹部や中国担当の論説委員ら約百数十人を中国大使館に招いて“忘年会”を開催した。程大使のスピーチは日中和解の重要性に力点を置いたものだった。
公約先送りで中韓を刺激せず
安倍首相が選挙公約を直ちに実現させようとすれば、日本国内だけでなく、中韓などから激しい反発が起きるのは間違いない。中国や韓国との関係改善をしようとするなら、選挙向けの「宣伝」と現実の「政策」を冷静かつ慎重に区別する必要があろう。
安倍氏が衆院選後、尖閣への公務員常駐や「竹島の日」式典の政府主催を当面見送る方針を固めたのは聡明な判断だと言える。
安倍氏は12月22日、訪問先の山口県長門市で記者団に対し「日中関係は極めて重要な二国間関係の一つだ。戦略的互恵関係の原点に戻れるよう努力していきたい」と強調した。自らは13年1月20日のオバマ米大統領の2期目就任式に合わせた訪米を計画。中国との関係改善のためには、日中友好議員連盟会長で中国指導部とのつながりが深い高村正彦・自民党副総裁を特使として派遣することを検討中だ。