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2021年11月20日

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山田敏弘 (やまだ・としひろ)

国際ジャーナリスト

講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版などを経て、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の客員研究員として国際情勢やサイバー安全保障の研究・取材活動に従事。著書に『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社+α新書)、『死体格差 異状死17万人の衝撃』(新潮社)など。

中国が撒くフェイクニュース
存在しない生物学者

 こうした偽サイトは従来、①サイト上で不自然な日本語が見られる、②サイトのURLが極端に長い、③URL欄に鍵マークがないことなどで見抜けた。だが最近は技術が高度化し、視覚的に判断するのが困難になっている。同様の事例は、ワクチン接種のようにその時点での社会現象などに合わせて増加する。

 図2の通り、ワクチン接種の準備が進むにつれ、ワクチンに関するネット上の不正活動は減少している。ハッカーは次の狙いを定めているのだろう。今後ワクチンパスポートの導入などが議論されるが、こうしたものがハッカーたちの〝餌食〟になる可能性がある。

 東京五輪・パラリンピックでも大会期間中に約4億5000万回のサイバー攻撃が確認された。組織委員会は、大会運営には影響が出なかったと発表した。だが、サイバーセキュリティーの研究を行う早稲田大学基幹理工学部の森達哉教授は「五輪の公式サイトに類似したドメイン名が約2000件登録されており、そのうちの無視できない件数が悪性サイトの運用に利用されていた」と指摘する。

 それらの中にはウェブ検索の上位に表示されるサイトもあり、競技のライブ配信を視聴するために別のアプリのダウンロードを迫られたり、クレジットカード番号の入力が必要なウェブサイトに誘導されたりするサイトも存在したという(図3)。森教授は「一般のユーザーが類似ドメインの真贋を見分けることは難しい。抜本的な対策技術を開発することも必要だ」と話す。

東京五輪のテレビ放送予定を偽装したウェブサイトから、不審なスポーツ中継サイトへ誘導される例 (TREND MICRO) 写真を拡大

 情報戦などによって、じわりじわりと私たちの「頭の中」にまで影響を及ぼそうとするサイバー工作も続けられている。その主戦場は、SNSだ。

 サイバー空間に国境はない。20年1月から世界で猛威を振るってきた新型コロナに関して、発生国の汚名を逃れようとする中国は、熱心に世界に向けてフェイクニュースをばら撒いてきたのである。

 今年8月には実在しないスイス人生物学者をでっち上げ、「中国が新型コロナの発生源であるという話は非科学的で政治問題だ」とこの学者が発言したことにして、SNSや中国政府系新聞などで引用していた。スイス大使館は公式ツイッターで「そんな人物はいない」と否定し、フェイクニュースであると中国を非難している。

 それだけではない。中国は、国外で中国共産党の協力者を見つけるために、偽のプロフィールと、AIで作った顔写真を載せたSNSアカウントを駆使して工作を行っている。フォロワーすらもAIで作られた偽アカウントが並ぶケースもあり、そうしたアカウントが中国政府の意向に沿った反米フェイクニュース──例えば、「香港のデモは米国の陰謀だ」など──をばら撒いているのだ。

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