実力による現状変更を行う中国
また、安倍首相は退役した護衛艦を海保の巡視船として使うことに言及しているが、150人以上が乗船する護衛艦と50人程度が乗船する巡視船は構造も運用も大きく異なるため、ハードルが高い。メンテナンスも難しいだろう。それよりは、現在複数年計画で調達している巡視船を単年度予算で建造できるようにする方がいい。
一方、海保の航空機は限られた能力と数しかないため、退役した海上自衛隊の哨戒機を海保に引き渡すことは検討すべきだ。洋上での哨戒能力の強化は海保の能力を飛躍的に高めるだろう。
中国は海保の警備能力を限界まで追い込んで日本の実効支配を崩すことを狙っている。しかし、以上のような海保の抜本的強化に取り組めば、それが中国に対する抑止力として機能するだろう。
また、一部には領海警備法を制定すれば中国公船を領海から追い出せるという意見があるが、領海警備法を制定しても中国公船相手にはあまり大きな効果は期待できない。国家が絶対的な主権を行使できる領土・領空と違い、領海では国家の主権は限定的だ。外国船には無害通航権が認められ、沿岸国の安全を脅かさない限り自由に通航することができる。
日本の領海で中国公船が「警備」活動を行うことは無害通航とは認められない。しかし、国際法上、政府公船は外国の管轄権から免除されるため、中国公船が領海を侵犯しても海保には退去を要請することしかできない。
中国が軍艦でなく、監視船を送り込んでくるのは、軍艦であれば武力による威嚇となってしまうが、法執行機関の監視船であれば中国が尖閣周辺海域で管轄権行使していると国際的に示すことができるからだ。中国は同様の行為を南シナ海でフィリピンやベトナムに対して行っている。だが、国際判例上、武力行使の判断をする際に、主体が軍であるか法執行機関であるかは決定的ではない。主体が法執行機関であってもその行為が武力による威嚇と認定されたケースが存在する(ガイアナ対スリナム事件)。