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2021年11月29日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

日本、対中制裁では過去も慎重

 バイデン大統領による「外交ボイコット」発言を受けての岸田文雄首相は歯切れが悪く、明確さを欠いた。

 首相はバイデン発言の翌日、「それぞれの国で立場や考えがある。日本は日本の立場で考える」、「国益をしっかり考えながら判断していく」と述べるにとどめた。松野博一官房長官も「日本の考えはまだ決まっていない」と述べたが、いずれも苦しい胸の内が伝わってくるようだ。

 こと中国への強硬手段となると、日本は欧米各国と簡単に歩調を合わせることのできない事情を抱える。過去にも苦しい思いをした経験がある。

 1989年6月4日の天安門事件がそれだ。

 米国、欧州は、各国歩調による強い共同制裁を主張したが、日本はこれに同調するのを避けた。

 事件直後にフランスで開かれたアルシュ・サミット(主要国首脳会議)で、宇野宗佑首相(当時)はこうした議論を展開した。

 「日中関係には欧米諸国とは同一視できない特殊な面、戦争を含む過去の歴史的関係などがある」(2020年に公開された1989年6月20日の外交文書)という理由からだ。

 当時、日中間には長年の懸案だった天皇陛下(現上皇)のご訪中という問題があった。失敗は絶対に許されない日本側としては、対中関係の悪化は何としても避けたいところだった。

 中国への新規円借款などは延期したものの、継続案件には手を付けず、新規の第3次円借款8100億円についても90年7月に供与を開始した。天皇訪中は国交正常化20周年に当たる1992年10月に大歓迎の中で行われた。

 EUが中国への武器禁輸の制裁をいまなお継続しているのとは大きな違いだ。

日中関係の構図は当時と変わらず

 こうした過去の経緯を振り返ってみると、北京五輪への外交ボイコットをめぐって日本は、当時と同様の状況に置かれているようにも見える。

 欧米各国とは異なった事情をかかえるという構図は、地政学的にみて天安門当時と変化はない。政治的には来年日中国交正常化50周年を迎える。大きな節目の年にもかかわらず、延期された習近平国家主席の来日日程も決まっておらず双方での祝賀ムードは著しく盛り上がりを欠いている。

 そうしたなかで、日本政府が中国に強硬な方針を取ることに慎重になるのは当然だろう。

 しかし、一方では尖閣諸島付近での中国公船の領海侵犯、遊弋(ゆうよく)は恒常化、南シナ海の領有権主張と人工島の建設などで東南アジア各国の反発、警戒を招いている。中国の国力、軍事力は天安門事件当時とはけた違いに巨大で、脅威も比較にならないほど大きい。

 日本だけが中国に宥和的な方針を取れば、世界の反発は日本に向かい孤立化してしまうだろう。

 林外相がさきの電話協議で王毅外相から訪中招請があったことを明らかにたことで自民党内の警戒感が高まっている事情もある。岸田首相が簡単に方針を決めることができないのは十分理解できる。どう決めるにしても苦しい決断になるだろう。

五輪外交、竹下首相の「ソウル」出席が契機

 各国首脳らが開・閉会式に集う過去の〝オリンピック外交〟がいつから始まったのかは判然としない。日本オリンピック委員会(JOC)にも詳細な記録はないようだ。


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