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WEDGE REPORT

2021年11月29日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 1988年のソウル五輪に、日本の竹下登首相(当時)が出席、その年に就任したばかりの盧泰愚大統領(同、先月死去)と会談したのが発端といえそうだ。

 この時は竹下首相が筆頭格。中国は田紀雲副首相、アメリカは前回の開催地、ロサンゼルスの市長、イギリスはスポーツ相が出席した程度だった。

 それ以降の大会で、各国からの首脳級出席が相次ぐ。

 2008年の北京夏季五輪には、福田康夫首相夫妻、アメリカのブッシュ大統領(子)夫妻、フランスのサルコジ大統領(いずれも当時)ら100を超える国・地域の指導者らが参加、中国は国際政治での主要なプレーヤーへと躍り出た。

 14年2月のロシア・ソチ五輪は、同性愛者への人権侵害問題などがあって、オバマ米大統領、キャメロン英首相、オランド仏大統領(いずれも当時)らが出席を見送ったものの、日本の安倍晋三首相、中国の習近平国家主席らがかけつけた。出席首脳は40カ国にとどまった。

 安倍首相は、さびしい五輪外交のなかで、プーチン大統領の数少ない〝親しい友人〟としての親密さを示し、北方領土問題の進展を期待したかったようだが、成果はなかった。

米朝首脳会談につながった平昌五輪の南北対話

 〝五輪首脳外交〟がもっとも成果をあげたのは、前回2018年の韓国・平昌での冬季大会だろう。

 開会式に合わせて、北朝鮮から、最高指導者、金正恩朝鮮労働党総書記(当時は朝鮮労働党委員長)の実妹、金与正党宣伝部副部長、金永南最高人民会議常任委員長らが訪問、文在寅大統領らと打ち解けて会談した。北代表団に同行したオーケストラの公演を共に鑑賞、南北融和へのムードが高まった。

 これによって、4月から3度にわたる文大統領と金正恩氏との南北首脳会談が実現し、その年6月のシンガポールでのトランプ米大統領と金正恩氏による歴史的な米朝首脳会談につながった。文在寅大統領は、米朝会談は自らの仲介で実現したと自負しているという。

 平昌五輪には、日本から安倍晋三首相、アメリカはペンス副大統領(当時)が出席したが、北代表団とは言葉も交わさなかった。

〝五輪外交〟自体が政治介入の元凶

 過去の例を見ると、五輪外交が実質的に成果をあげるケースは少ない。開催国に対する祝福という儀礼的な首脳会談に終始する性格であることを考えれば当然だ。平昌五輪のケースは例外というべきだろう。 

 来年2月の北京オリンピックに、バイデン政権が高官派遣を見送ったとしても、中国が自ら省みて、人権侵害を改めるとは到底考えられない。逆に出席しても、それによって米中関係が改善に向かうこともありえまい。米国が高官を派遣しても意味がないと考えるのは当然だろう。

 米国の外交ボイコットは、「スポーツの政治利用」だという指摘がある。

 1980年のモスクワ五輪の際、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議して、日米など西側各国が選手派遣を見送った時も、同様の議論があった。

 スポーツの祭典であるオリンピックに選手でもない首脳たちが、開会式にだけ出席して、儀礼的な首脳会談を行うことはどうなのか。これも「政治利用」ではないのか。五輪は主役の選手に任せておき、政治家は引っ込んでいるのがスジだろう。

 近年の五輪に対しては、商業化が強すぎるなど批判が少なくない。そのあり方を根本的に見直すべきとの指摘が、毎回必ず聞かれる。

 いつの時か、オリンピックが新しい形に生まれ変わった時は、〝五輪外交〟などという奇妙な習慣もなくせば、「政治」という厄介な問題が入り込む余地もなくなる。そうなれば「米中か日中か」で日本が板挟みになることもなくなるだろう。 

  
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