自動車産業への懸念も
バイデン政権が米国国境への移民の流れを制御するためにトランプのように制裁関税により恫喝するような手段をとらないことは評価されるが、説得によるメキシコ側の協力に依存せざるを得ず、中米諸国や南部メキシコの開発支援などでバランスを取ろうとしているが、貿易を含めて対米関係でメキシコ側を強気にさせている面があろう。
しかし、メキシコも、その新型コロナ対策が自動車生産の減少につながっており、また、炭化水素を中心としたエネルギー産業を重視し国家管理を強化しようとしていることが再生可能エネルギー分野への民間投資を阻害し、気候温暖化防止政策に非協力的であるとされ、投資環境上の不安要素となっているなど、現政権の政策には問題が多い。政権の左派的政策により、経済が停滞している一方、最低賃金の引き上げなどを積極的に行っているが、実際の賃金上昇のためには経済の成長も必要であり、そのためにも外国投資に対する他の面での投資環境に配慮する必要があり、メキシコ側も歩み寄るべき余地がある。
今般の首脳会議では、北米でのサプライチェーンの強化の必要性が認識され、リチウムなど鉱物資源を含むサプライチェーン問題に関る作業部会が設置されたことは評価される。他方、いずれにせよ、今後自動車生産が電気自動車にシフトしていく中で、北米におけるサプライチェーンがこれによりどのような影響を受けていくのか、メキシコの自動車産業に長期的にどのような影響が生ずるかは今後留意する必要があるであろう。
北米地域は、日本にとって市場としてまた生産拠点として重要であり、北米3国の関係が安定し協調が進み、同地域の市場統合が他のパートナーの利益を害さない形で拡大強化されることが望まれる。