10月8日にメキシコを訪問したブリンケン国務長官らは、メキシコのロペス・オブラドールやエブラル外相と会談し、両国間の安全保障協力を修復するとの方針が合意された。
ブリンケン国務長官は同日、法執行の強化だけでなく、公衆衛生、法の支配、包摂的な経済機会を重視する安全保障協力のための包括的なアプローチの時が来たと述べた。メキシコのエブラル外相は、「バイセンテニアル・フレームワーク」と呼ばれるこの協定は、「メリダ・イニシアティブ」よりも広範なものであり、殺人事件と薬物乱用の減少、武器密輸への取り組み、フェンタニルなど薬物製造に使用される化学物質の押収を目指すものであると述べた。
バイデン政権にとり、メキシコの間では、移民対策と並んで麻薬対策を巡る問題がトランプ政権から引き継いだ深刻な課題であった。そもそも2007年のカルデロン・ブッシュ間で合意したメリダ・イニシアティブがメキシコ国内の麻薬組織対策にも米国への薬物流入の防止についてもほとんど成果を上げていないとの問題があった。
これに加えて、昨年10月ロサンゼルスで麻薬組織との共謀容疑で米国当局がシエンフエゴス前国防相を逮捕したことで両国間の治安協力は極めて悪化した。事前の情報共有もなく、国内では麻薬組織との戦いの英雄と尊敬されていた元高官を逮捕したことにメキシコ政府が強く反発し、翌月には米国側は、メキシコ側が取り調べを行うことを条件に米国での訴追を取り下げ送還した。
メキシコ側はそれだけでは収まらず、メキシコ議会は麻薬取締局(DEA)職員の行動を制限することになる法案を成立させ、更に本年1月、ロペス・オブラドールは、米国側の容疑は全て捏造であると宣言してメキシコでの本件を捜査を終結し、更に、米国検察当局から手交されていた被疑事実に関する報告書を公表した。これに対し米国司法省が強く反発し、両国当局間の信頼関係は損なわれ安全協力は極めて困難な状況となっていた。