麻薬問題に関する認識のずれ
米国側では、バイデン政権が成立し、移民問題に関しメキシコの協力は不可欠であり、また、トランプ政権とは違って問題の原因に取り組もうとするアプローチはロペス・オブラドールの政策とも親和性があり、メリダ・イニシアテチィブに代わり、今回、そもそも若者が犯罪にかかわらないよう雇用機会などにも配慮するより広い枠組みで取り組む方向性が合意されたのである。これは、米・メキシコ間でようやくまともな外交関係が機能し始めたとの印象を受ける。
もっとも、麻薬問題は米国に需要があることが原因だとするメキシコと、麻薬組織の取り締まりはメキシコの責任と主張する米国基本的な認識にはずれがあり、DEA職員がメキシコ内で相当な行動の自由や治安情報へのアクセスの権利を与えられながらメキシコ側と十分な情報共有をしないこと、今般のシエンフエゴスを巡る事実についての真っ向から対立する見方等両者間の不満や相互不信は解消したとは言えず、来年1月を目標に策定する新協定の交渉が順調に進み、また、機能するかは、やや心配である。
バイデン政権にとりメキシコが移民の流れを抑制し一時的に滞在を認める対応を取ることは極めて重要であり、安全保障協力については柔軟な対応を取らざるを得ない。他方、米国議会筋では、気候温暖化防止に対するメキシコ側の対応に批判も高まってきており、また、ロペス・オブラドールの親キューバ姿勢や米州機構(OAS)批判など、米国にとり気に障る問題もある。従って、内政上の考慮からも、バイデン政権は、対メキシコ政策について当面微妙なかじ取りが必要となっている。