2023年1月28日(土)

お花畑の農業論にモノ申す

2021年12月13日

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熊野孝文 (くまの・たかふみ)

元米穀新聞記者

1954年生まれ。東京経済大学中退後、コメの相場情報として米穀市況を速報する仕事に8年従事し、米穀新聞の記者として農家と卸売業者、小売店と、それぞれが取引する現場を40年取材してきた。近書に『ブランド米開発競争―美味いコメ作りの舞台裏』(中央公論新社)。

 コロナ禍でコメの需要面に与えた影響で最も大きなものは、緊急事態宣言で外食店などの休業や営業時間短縮で、この分野でのコメの需要が落ち込んだ。外食分野で使用されるコメの需要量は大きく、推計で年間200万㌧もある。農水省の推計では中食分野も含めるとこの分野で消費されるコメの量は全体の37%も占める。それだけ重要な分野だということもあってか、農水省はこの分野で消費されるコメを産地銘柄別に調査して公表している。

 よくそんなことまで調査していると感心してしまうが、生産者やコメの流通業者にとってはこの分野の消費減は大問題になった。東京の都心部に店舗を構え、こうした外食店ばかりにコメを納入している米穀店はコロナ禍で緊急事態宣言が発せられた時は4割も売り上げが減少、まさに死活問題になった。

コメ作りを断念する農家も

 影響を受けたのはこうした業務用米専門店だけではない。量販店向けに多く卸しているコメ卸でも例年、在庫になった前年産は業務用に振り向けて捌いていくのだが、コロナ禍でこの分野の需要が消失してしまったので、そうした営業もできず、結果的に在庫負担が増し、新米を買えなかったこともあって3年産米の価格が大幅に下落した。

 新米が出回り始めた9月には雑銘柄では60㌔当たり前年より3000円ほど安い8000円台、コシヒカリでも1万円割り込むところまで下落した。農協の概算金に至っては前年産に比べ3000円~4000円も値下げした産地もあり、組合員生産者も稲作経営の目途が立たず、コメ作りを断念する農家も出始めた。

 それに追い打ちをかけているのがコロナ禍での物流の混乱などによる肥料などあらゆる生産資材の値上がりで、この状況が続くと大規模農家でも採算を取るのが難しく、コメ作りをやめるという選択肢しかなくなるというのが現状で、まさに日本のコメ作は危機的状況を迎えている。

それでも続ける生産者の努力

 ドローンを使ったコメの直播栽培は、そうしたコメ産業への逆風の中で進められている挑戦となっている。

 最初は無人のラジコンヘリで直播を実践したが、ラジコンヘリは1機1300万円もすることや操作も熟練が必要なため、200万円ほどで購入でき、操作も簡単なドローンで直播することにした。ドローンよる直播は3年目になるが、感心するのは軽トラックを改良してドローンが簡単に積み下ろしできるようにし、バッテリーや種子、農薬などを一式積み込んで簡単に圃場を移動できるようにしていることだ。

 同社が耕作する圃場は分散しているため、米国のように飛行機で種子を播くというわけにはいかない。その意味ではドローンによる直播は日本の水田に合っているということも言える。ただ、ドローンに積める種子は一回10㌔程度で大きな面積を播種するには何回も種子を積み替えなければならないため、4年産では搭載量が4倍でかつ360度に種子を播ける新しいドローンを購入してそれで播くことにしている。現場での試行錯誤は続いている。

 需要も下がる一方で、なり手も減り続ける日本のコメ産業にとって、必要なのは、生産量を減らして価格を保つことではない。ドローンでの直播栽培のような新たな農業手法の開発や実践を奨励することや、社会や食生活の変化に順応したコメの販売や商品開発にある。なによりも日本の国土に最も適した、かつ持続可能な作物であるコメを多様な需要に応えられるよう市場に見合った価格が形成されるようにして需要を取り戻さないことには日本のコメに未来はない。

  
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