すでに取り入れている国々は、2012年から税金が4倍になってしまったアイスランド(第6回参照)や、「力関係は自然と漁業者優位になる。利益の9割は漁業者に入ると加工業者が語るノルウェーなど、漁業者にとって得な制度であることを知っています。これらの国々では、次の段階、つまり儲かりすぎている漁業者に偏っている利益を、加工業者を始めとする関連した産業に、いかに利益を分配していくかという段階にあるのです。ノルウェーの漁船船主は「個別枠のない時代には戻れないと笑う」状況ですので、一旦取り入れて、管理が軌道に乗れば、漁業者が反対することなど、ありえません。
魚が減ったために禁漁をした結果、資源が回復してきている例は、日本も含めて、世界には例がいくつもあります。傷ついた資源の復活を待つ場合は、どれだけ我慢するかによって、その後の回復の速度と水揚げ地に与える影響は変わってきます。傷を負っているのに気づかず、それが重傷だと自覚していない場合などは、どうしようもありません。日本の水産業は、まず漁業が重傷であることを自覚し、治療をしなければならないのです。ノルウェーの例をとれば「放置すれば資源が枯渇するという科学者の警告を聞いた政治家たちの手柄だった」(ノルウェー輸出審議会)ということです。傷が治っていないのに無理をすれば、治りません。
アイスランドのカラフトシシャモ
きちんと管理すれば資源は戻る
持続可能な漁業であり続けるために、産卵させるための最低限のカラフトシシャモ(以降 シシャモ)の資源を残しながら、漁獲を続けているアイスランドを例にとって説明します。
アイスランドの年間総水揚げ数量1.1百万トン(2011年)の内シシャモは30万トン。シシャモの水揚げ数量の変動が、全体の水揚げ量を左右しています。2012年の水揚げは、シシャモの水揚げが70万トンに増加し、全体の水揚げ数量を押し上げています。厳格な資源管理により、再びシシャモの資源は増えているのです。
2009年に資源の減少により調査枠(1.5万トン)のみとした後、資源は再び回復。 (出所:Marine Research Institute アイスランドMRI) 拡大画像表示
カラフトシシャモは、日本の鮭のように産卵後に死んでしまいます。日本で販売されているシシャモのほとんどは、ノルウェー、アイスランド、カナダから輸入されるカラフトシシャモです(2011年は2.3万トン輸入)。卵をたっぷり持ったシシャモは、どうやって毎年漁獲されていくのでしょうか?
シシャモは、主に産卵場に回遊してきたものを漁獲します。でも、卵を持った魚を狙って獲り続けていけば、いなくなってしまうのではないか? と心配されるかも知れません。水揚げはその年の資源量に左右されますが(図1)、資源管理の徹底により、種火の分の資源を残しているので、減っても必ずもとに戻っているのです。資源回復の実績が何度もあるので、漁獲している国々だけでなく、日本を含む海外の買付業者は数年後には必ずもとに戻っていくことを疑いません。