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2021年12月24日

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佐藤主光 (さとう・もとひろ)

一橋大学大学院経済学研究科 教授

1992年一橋大学経済学部卒業、98年クイーンズ大学(カナダ)経済学博士号取得。一橋大学経済学研究科助教授などを経て2009年より現職。財政制度等審議会財政制度分科会委員などを兼務。

 構造的な要因にも留意が必要だ。一般に若年世代は将来に備えて貯蓄をする一方、高齢世代は消費のため貯蓄を取り崩す。従って、人口減少と高齢化は必然的に経済全体の貯蓄を減じて、金融資産は頭打ちになる。実際、国民経済計算の家計貯蓄率は1990年代こそ10%を超えていたが、近年は1~3%台に留まる。日本が貯蓄大国というのは過去の話だ。

 他方、国の借金はこの家計の金融資産を上回る勢いで増加してきた(下図参照)。ギリシャなど海外とは違って、わが国の国債は国内で消化されている(海外投資家の国債保有比率は13%程度)という前提条件が近い将来、崩れることになろう。このとき海外投資家から資金を求めざるを得ない。しかし、わが国の国債への海外からの評価は低い。海外投資家からの信頼度を指標化した「格付け」をみると欧州諸国はおろか米国や韓国よりも低い。彼らは高い金利を要求するだろう。

 あるいは財政破綻は巨大災害の発生などにより非連続的(突発的)に生じるかもしれない。例えば、首都直下地震が発生したとすると、インフラなどの直接的な被害は66兆円余り(経済活動の遅滞などに起因する経済損失を含めれば約100兆円)との試算がある。

 仮にその復興費用を国が賄うとすれば国債発行は急騰する。しかし、この国債を国内で消化するのは難しい。家計や企業も自身の生活再建や事業の再開に向けた資金を必要とするからだ。海外から資金を調達するとなれば、前述の通り金利が高く付くだろう。経済力の回復が見込めないとなれば、(償還財源に不安が生じて)日本国債への信認が低下、国債金利が跳ね上がり財政をさらに悪化させかねない。

 このように財政破綻が起きるリスクは刻一刻と積み重なる。財政は「何とかなっている」のではなく、いわば「綱渡り」状況だ。「今大丈夫」は「将来も大丈夫」なことを意味しない。

 それでも、日銀に国債を買わせればよいという意見もあるだろう。いわゆる「ヘリコプターマネー」論によれば、仮に国債を日銀が買い取ってしまえば、あるいは(現在は財政法上、認められていないが)直接、国債を引き受ければ、政府の民間に対する債務はなくなる。しかし、詰まるところ「国債」という国の債務が、「貨幣」という中央銀行の債務に代わるにすぎない。親会社(=国)の債務を子会社(=中央銀行)の債務に付け替える「粉飾決算」に相当しよう。その帰結は①過剰な貨幣が市中に出回れば高インフレ、②金利が上がって日銀のバランスシート(財務諸表)が毀損すれば、通貨への信認が損なわれ、財政危機が通貨危機に転化する。

 なお、デフォルト(債務不履行)に陥るといったシナリオは決して非現実的とはいえない。国債の多くが国内の金融機関で保有されている以上、デフォルトは国内金融機関の破綻、よって金融危機につながってしまう。皮肉なことに、国民にとって国債の国内消化は安心材料ではなく、むしろ自分たちの金融資産が毀損するリスクになる。

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