2022年12月7日(水)

Wedge SPECIAL REPORT

2021年12月24日

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佐藤主光 (さとう・もとひろ)

一橋大学大学院経済学研究科 教授

1992年一橋大学経済学部卒業、98年クイーンズ大学(カナダ)経済学博士号取得。一橋大学経済学研究科助教授などを経て2009年より現職。財政制度等審議会財政制度分科会委員などを兼務。

国の財政が行き詰まれば
「当たり前」の日常が失われる

 繰り返すが、企業の倒産と異なり、財政破綻が起こっても国家がなくなるわけではない。破綻後の状況は企業の「事業再生」と似ているかもしれない。ギリシャや韓国の場合、国際通貨基金(IMF)などの管理下に置かれ、財政再建のために、短期間での支出削減目標を達成することが求められた。このような状況では財政健全化の選択肢も限られ、一刻も早い立て直しを図るため、政府、国民双方にとって大きな痛みを負うことになるだろう。

 とはいえ、財政の破綻は所詮霞が関の問題であり、自分たちには関係ないという国民も少なくない。財政破綻後のシナリオにイメージが湧かないからだろう。しかし、国の財政が行き詰まれば、当たり前に思ってきた多くの行政サービスが提供されなくなる。

 わが国では多くの地方自治体が国からの補助金に依存してきた。国が財政破綻すれば、こうした補助金は大きくカットされるだろう。自治体の財政が行き詰まる連鎖破綻になり、自治体は道路・橋梁などのインフラの管理や整備、公立学校・病院などの施設の運営ができなくなる。ゴミの収集も滞るだろうし、水道管が破裂しても迅速な修理はできなくなる。災害でインフラが毀損しても復旧することも困難だ。08年に財政破綻した夕張市では医療機関の機能が縮小するなど行政サービスが低下したほか、住民税や軽自動車税、公共料金が引き上げられた。この状態が全国で発生することになる。「当たり前」の日常が失われるのである。

不都合な現実から目を逸らさず
適切なリスクマネジメントを

 言うまでもなく財政破綻に至る前にあらかじめ財政を健全化させるのが最善だ。しかし、それが叶わないならば財政破綻に備えた「プランB」があって然るべきだろう。想定外で思考停止とならぬように「有事」に備えた事前計画を立てておけば、破綻した後の善後策の拠り所になろう。その一つが「歳出のトリアージ」である。事前の取り決めがなければ、歳出削減の費用対効果の検証がなされず、政治力学で「切りやすいところを切る」となりかねない。国家として「何を守るのか」という優先順位を立てておく必要がある。

 下図はトリアージの一例を示している。まず優先すべきは、最低限の治安機能だ。自衛隊や警察、消防といった組織がこれにあたる。また、教育や子育てといった「未来への投資」も維持する。現役世代が起こした問題のしわ寄せを将来世代に負わせるべきではない。さらに生活保護や基礎年金など最低限の生活保障も確保するべきだろう。安全保障と同様に、有事のシミュレーションを基に財政の優先順位を決めることは、平時における「国家財政のあるべき姿」を考える契機にもなる。

 ただし、トリアージは短期の「止血措置」にすぎない。その上で持続可能な財政の再構築に向けた歳出・税制の抜本的な改革を進める工程表(ロードマップ)を描くことが肝要だ。無論、財政再建の痛みが社会の分断につながってはならない。社会的弱者に対するセーフティーネットをあらかじめ整備していくことが望まれよう。そもそも財政は国民生活を守るためであり、財政のために国民生活を破綻させては本末転倒だ。

 われわれ日本人は不都合な現実から目を逸らす(「知らぬが仏」を決め込む)傾向が強く、危機時のシナリオをつくることが不得意だ。しかし、「転ばぬ先の杖」ともいう。財政危機を「想定外」のままにしておくのではなく、最善=危機の回避を期待しつつ、最悪=危機の発生に備えるのが適切なリスクマネジメントともいえる。

Wedge1月号では、以下の​特集「破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか」を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンでお買い求めいただけます。
■破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
 マンガでみる近未来    高騰する物価に安保にも悪影響  財政破綻後の日常とは?
漫画・芳乃ゆうり 編集協力・Whomor Inc. 原案/文・編集部
PART1 現実味増す財政危機  求められる有事のシミュレーション
佐藤主光(一橋大学大学院経済学研究科 教授)
PART2 「脆弱な資本主義」と「異形の社民主義」 日本社会の不幸な融合
 Column  飲み会と財政民主主義
藤城 眞(SOMPOホールディングス 顧問)
 COLUMN1  お金の歴史から見えてくる人間社会の本質とは?  
大村大次郎(元国税調査官)
PART3 平成の財政政策で残された課題  岸田政権はこう向き合え
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)
​PART4 〝リアリティー〟なきMMT論  負担の議論から目を背けるな
森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)
 COLUMN2  小さなことからコツコツと 自治体に学ぶ「歳出入」改革 編集部
PART5 膨らみ続ける社会保障費 前例なき〝再構築〟へ決断のとき
小黒一正(法政大学経済学部 教授)
PART6 今こそ企業の経営力高め日本経済繁栄への突破口を開け
櫻田謙悟(経済同友会 代表幹事・SOMPOホールディングスグループCEO取締役 代表執行役社長)
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土居丈朗(慶應義塾大学経済学部 教授)

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Wedge 2022年1月号より
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか
破裂寸前の国家財政 それでもバラマキ続けるのか

日本の借金膨張が止まらない。世界一の「債務大国」であるにもかかわらず、新型コロナ対策を理由にした国債発行、予算増額はとどまるところを知らない。だが、際限なく天から降ってくるお金は、日本企業や国民一人ひとりが本来持つ自立の精神を奪い、思考停止へと誘(いざな)う。このまま突き進めば、将来どのような危機が起こりうるのか。その未来を避ける方策とは。“打ち出の小槌”など、現実の世界には存在しない。

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