2024年12月22日(日)

#財政危機と闘います

2021年8月30日

 ある金曜日のホームルームで、教師は生徒たちに向かって、「来週、抜き打ちテストをするぞ」と宣告した。それを聞いた生徒たちは、次のように推論した。

 もし、木曜日までにテストが行われなければ、金曜日にテストがあると分かってしまうので金曜日には抜き打ちテストはない。

 金曜日に抜き打ちテストがないということは、水曜日までに抜き打ちテストが行われなければ木曜日にあると分かってしまうのでやはり木曜日にも抜き打ちテストはない。

 木曜日に抜き打ちテストがないということは、火曜日までに抜き打ちテストが行われなければ水曜日にあると分かってしまうので水曜日にも抜き打ちテストはない。

 生徒たちは、以下同様の推論を繰り返し、「先生は抜き打ちテストできない」との結論に達し、安心してテスト勉強を一切することなく週末を過ごした。

 すると、教師はなんと水曜日に抜き打ちテストを行ったのだ。

 これは「抜き打ちテストのパラドクス」として知られるものだが、実は日本財政に対する国民の対応も、この生徒たちと似たり寄ったりだと言えば驚くだろうか。

(Viktor Morozuk/gettyimages)

財政再建論議を忌避する日本

 周知の通り、新型コロナウイルス禍に対処するため、過去に例を見ない規模の財政出動を繰り返した結果、日本の財政は悪化の一途をたどっている。現在の困難な経済的苦境を乗り越えるため、今はまだ財政再建を議論する時機ではないとの声が政治家にも有識者にも強く、深刻化する一方の日本財政を前にしても財政再建の青写真はいまだに一切示されていない。   

 もちろん、一部の財政学者が、いくら「財政は危機的状況にある」と叫んだところで、政府債務残高対GDP(国内総生産)比率は上昇を続けていると言っても、国債金利が急騰しているわけでもなく、国債消化が目に見えて悪化しているわけでもない。それどころか、今年度の国債発行予定額は236兆円超となっているにもかかわらず、財政は不気味なほど落ち着いている。

 こうした状況下では、かえって財政再建を主張して、コロナ禍に苦しむ国民に増税や歳出削減を押し付ける方が、困難な状況下にある人たちに追い打ちをかける人非人との謗りは免れないのも止む無しなのかもしれない。

 しかし、政府といえども打ち出の小槌を持っているわけではないのだから、無尽蔵にお金を使えるわけはない。そもそも、古代ギリシャの哲学者パルメニデスが喝破したように「無から有は生じない」のは世の摂理なのだから、打ち出の小槌なんてこの世には存在しない(経済学では「ノーフリーランチの原則」と呼ばれている)。政府だけがこの真理から自由になれると考えるのは正しくない。


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