2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年12月27日

 以上のような状況は、米国の政治の現実の反映に過ぎないのかも知れない。共和党と民主党を問わず、対中強硬論が強い状況でトランプの強硬路線を放棄することにはリスクがある。議会は、欧州であれアジアであれ、貿易協定には気乗り薄であるらしい。

保護主義が中間選挙への逆転の一手になるのか

 そうだとしても、(トランプ政権の対中高関税の維持はともかく)トランプ政権が国家安全保障という荒唐無稽な根拠により鉄とアルミについて同盟国にも発動した関税の維持にバイデン政権が未だに固執している(EUとの合意はあくまで関税を回避するためのクォータを設けるものである)のは異常である。さらに、鉄とアルミの関税は、英国に対しては維持されたままである。

 こうしたことも「労働者中心」の貿易政策である。労働者もさることながら、経営陣の圧力によるものでもあろう。これは仮面をかぶった保護主義である。下院が可決した「Build Back Better(ビルド・バック・ベター)」法案に規定される電気自動車に対する税額控除(全米自動車労組の労働者が製造した車には控除額が上乗せされることになっているのは「労働者中心」という訳であろう)も保護主義である。

 バイデン政権は、世界の貿易の進歩から自らを取り残すことをやっている。環太平洋パートナーシップ(TPP)に復帰しようとしないのも、「労働者中心」のゆえである。

 それは政治的な見返りを計算してのことかも知れない。しかしTPPに復帰しないことをもって、民主党が両院の支配を失う可能性が高いと見られる22年の中間選挙の形勢を逆転する材料にし得るようにも思われない。その後は、議会との関係で貿易のイニシアティブは一層困難となろう。

 気が付けば、中国がTPPに加入しかねない(もちろん全加盟国の承認を得るというTPP加盟要件をクリアするのは極めてハードルが高いではあろうが)状況に至るという、戦略的失態に繋がり得る。

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