欧州では女性の社会進出への意欲が強いが、米国のように男女の機会均等が当然という風土ではない。まだまだ主婦が家を守る昔ながらの家庭像を良しとする社会的風潮がドイツなどでも残っている。ドイツ経済研究所(DIW)の主要200社を対象にした調査では、取締役に占める女性の比率は3.2%。ドイツの経済界は01年に、10年間での比率引き上げを公約していたが、成果は挙がらなかった。ドイツはこれまで数値強制に反対してきたが、アンゲラ・メルケル首相も、労働大臣も女性ということを考えれば、今後、強制化に動く可能性は十分にある。
数値目標も課し、ともすれば企業への罰則までも導入することになりかねないEUに比べ、日本の「にぃまる・さんまる」は単なる目標で、実現可能性を疑問視する声が多い。管理職に占める女性の割合は米国で43%、独仏で38%に達するが、日本は11%に満たない。アジアでもシンガポールは31%に達し、日本を下回るのは10%弱に留まる韓国ぐらいだ。ましてや取締役となるとお寒い限り。日本経済新聞の調べでは、日本の主要企業500社の、取締役に占める女性の割合は、何と0・98%だという。
ここへ来て、女性活用が俄然注目されるようになったのは、かつてのような、男女平等や人権問題といった視点からではない。停滞を続ける日本経済の閉塞を打破するには、女性の力が不可欠だという認識が強まっていることが背景にある。自民党の政権公約でも「経済成長」のところに含まれているのはこのためだ。
「製造業からサービス業へ」「供給重視から需要重視へ」といった社会構造の変化は止まらない。力仕事の多い製造業の現場は男中心の職場だったが、サービス業の現場は女性の細やかさが不可欠になった。供給サイドである企業の論理でモノが売れる時代は男中心で企画しても良かったが、需要サイドである顧客ニーズをつかむには女性の役割が俄然高まる。消費の過半を担うのは女性だし、家庭内でモノを買う決定権を握るのも女性だ。今、注目されているシニア消費にしても女性が主導権を握る。何より平均寿命が長いのは女性である。
「企業が顧客として想定してきた“家族像”が大きく変わってきた」とライフネット生命保険の出口治明社長は言う。夫婦に子ども2人という「標準家庭」は崩れ、単身かカップルという家族が多数になった。そうした家族像の変化に合わせた保険商品をネットで売るビジネスモデルが成功を収めている。当然、単身女性のニーズを汲み取るには女性が不可欠。生命保険業界で初の女性取締役はこの小さなベンチャー企業で生まれた。