少子化、高齢化、人口減少が続く日本経済にあって稀少性が増す資源は労働力である。枯渇する労働力を斜陽産業から成長産業へ移動させられるかが、持続的な成長のカギとなる。
さらに、制度導入当初はそれなりに合理性があった規制も時代の変遷とともにかえって新規産業の勃興を抑え、成長を阻害する要因となっていることが問題視されていた。実際、バブル崩壊後の1995年3月には規制緩和推進計画が閣議決定されている。
なお、当時の日本経営者団体連盟(日経連)により同年5月に出された「新時代の『日本的経営』」では、少子高齢化という制約がある中でいかに賃金高騰を抑えるかという至上命題に対して、労働形態を3分割(長期蓄積能力活用型(正社員)、高度専門能力活用型(専門職)、雇用柔軟型(非正規))したうえで、雇用柔軟型労働力を活用することにより人件費を抑制することを提案している。
小泉・竹中構造改革はこうした問題意識や経済界の思惑の中に位置付けられる。
「非正規雇用の拡大」という世代間格差
実際、バブル崩壊以降、企業の多くがコスト削減を強いられる中で、新卒採用を急激に絞り込み、多くの若者が正社員として就職できないまま派遣社員などの非正規社員として労働市場に放り出される事態が進行した。
しかも、日本型雇用慣行の弊害もあり、一度正社員になれずに労働市場に出てしまうと、正社員として登用される道は絶望的に狭く険しく、人員削減の必要性が生じた場合、真っ先に切られるのも非正規社員からであった。つまり、日本型雇用慣行の皺寄せは、労働市場に参入するタイミングで景気の悪化に直面した若者世代が一手に引き受けることになる。その代表格が1990年代後半から2000年代前半までに労働市場に出た「就職氷河期世代」だ。
そうした影響は、若者の貧困化を引き起こし、将来を見据えられない若者による出生率の低下を及ぼしている。つまり、正社員と非正規社員という一種の現代版身分制度は、正規・非正規の賃金格差という直接的要因、少子化の進行による間接的要因から世代間格差を生じさせる。
非正規雇用の賃金を低く押さえ付けている元凶が小泉内閣の下での改正により製造業にも適用範囲を拡大させた労働者派遣法であり、これを最大限利用しているのが、価格でしか世界と渡り合えない日本企業であり、派遣社員で利益を貪る派遣会社であり、解雇規制で守られている正社員である。
逆に言えば、正社員の働きが少々悪くても解雇されず高い賃金を貰えるのは、雇用と賃金の調整弁としての非正規社員が存在するからである。
もし、現在主流のメンバーシップ型雇用のように人に値札がつくのではなく、ポストに値札がついているジョブ型雇用であれば、同じ仕事は同じ賃金か、労働市場の需給バランスを反映し非正規雇用の方が賃金が高くなることもあるはずである。現状のように正社員に比べて非正規社員が一方的に賃金が低いということはあり得ない。解雇規制により正社員が非正社員を搾取する仕組みが日本社会に制度化されてしまっているのだ。