2024年4月24日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年1月26日

 筆者のイグネイシャスは政権の内部情報に通じた人物であるので、論説に書かれているウクライナをハリネズミとする戦略が米国とNATOで検討されていることは事実であろう。もし、1月から始まった一連のロシアとの協議を通じて、ロシアがディエスカレーションに関心がなく、協議を侵攻のための口実作りに利用しているに過ぎないことが明らかになる場合には、米国とNATOは防御兵器だけでなく殺傷兵器を含む武器供与に踏み切るべきであろう。ウクライナ軍のための訓練チームを派遣し駐留させることも検討に値しよう。

NATOとロシアの政治的合意も形骸化

 イグネイシャスは上記論説で、侵攻があれば、NATOは兵を前方に動かすことを議論している、とも書いている。その具体的な内容は分からないが、もはや、1997年5月のNATO・ロシア議定書の規制に縛られる必要はない。

 この議定書はNATOの東方への拡大が議論されていた当時、ロシアを慰撫し、ロシアとの関係を維持するために作成された政治的合意(法的拘束力はない)であるが、その中でNATOは旧共産圏諸国への実質的戦闘部隊の常駐を控えるとの自己規制を表明している。それゆえに、NATOは、バルト三国とポーランドへの部隊の派遣はローテーションによることとしてきた。

 しかし、この規制は「現在および予見し得る安全保障環境」と「ロシアが同様の抑制を行使する」ことを前提とすることが議定書に記述されている。ロシアのクリミアの奪取とウクライナ東部への干渉、更には昨年来のウクライナ国境における軍事的威圧に鑑みれば、規制は死文化していると言うべきであろう。

 恐らく、プーチンはバイデンの精神的強固さを試している。バイデンには確固たる対応が求められる。それは単にロシアとの関係における問題ではない。バイデンが軟弱であるとの印象を中国に与えるような行動を取れば、中国が自身の行動に対する米国の出方を推し量る計算に重大な影響を与えるであろう。

   
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