質実剛健な東芝白物家電
このため、東芝の白物家電は、買収前と同じように、クオリティーの高い新製品を世に出し続けている。今私が注目しているのは洗濯機だ。「ウルトラファインバブル」を搭載しているモデル。
よく洗濯機、もしくは洗濯洗剤で、「洗浄力が何%上がりました」と宣伝されるが、謳われているほど効かない。毎年10%ずつ洗浄力が上がったとすると、10年目には元の2.6倍の洗浄力になる。実際どうだろうか? 10年前に比べて2.6倍の汚れを落としているだろうか?
実際により良い洗濯をしたい場合は、まず「お湯洗い」がお勧めだ。40℃で洗うと白さが際立つ。また、60℃で洗うと、室内干しでも臭わない。臭い菌を死滅させることができるからだ。
しかし、日本の多くの人は湯洗いを好まない。湯洗い機能は、ドラム式洗濯機の「十八番」だが、それすら水洗いで対応しようとする人が実に多い。それにはいくつか理由がある。まず、ドラム式が作られた欧米では、水が硬水なので洗剤のフルポテンシャルを使おうとすると温める必要があるためだ。もう一つは感染症対策。中世ヨーロッパは、洗濯は日を決めて共同の洗い場で行うものだった。水の便が悪いということが理由だが、お湯を効果的に使うことができるからだ。
一方、日本の水は軟水。洗剤のパワーを硬水より引き出してくれる。そして水量も豊富。このためできたのが、縦型洗濯機だ。私は、日本でお湯洗いが主流にならなかったのは縦型洗濯機の普及と、もう一つ、「禊」イメージがあると考える。それに付け加えるなら日本人はランニングフィーを払うのを嫌う。電気代、水道代、ガソリン代……。
例えば、冷蔵庫で食品ロスを防ぐことができたら、電気代節約よりはるかにお金を残せる。しかし、それより、長く冷蔵庫を開けることによって生じる電気代のほうが気になる。これと同じで服を洗うためにお湯を沸かすなんて「もったいない」という気持ちがあるのではないだろうか。クリーニング代より安いのに。
洗濯には、「布地」「汚れ」「洗剤」「水」「洗濯機」の要素がある。「水」は極めて重要な要素だが、基本的にその土地の水を使う。しかし「水の改善」はできる。この難題に、大真面目に取り組んだのが東芝LSだ。そして思いついたのは、水の中に目に見えないレベルの細かな泡を発生させ、洗剤の効果を高めて洗浄力をアップさせるというものだった。発想したのは買収前だそうだ。
この通常より約15%物理的洗浄力をアップさせた水を作り出すことこそ、水洗い中心の日本の洗濯機に一番求められるものと言っても過言ではない。しかも、あるギミック(仕掛け)を施した水路に水を通過させると、勝手に泡が発生してしまうのだから尚更すごい。電気代は0円だ。日本人の洗濯事情に最も合う洗濯機と言える。発表会で見た時、「この手があったか」と思ったのをよく覚えている。 「ウルトラファインバブル」と呼ばれるこの泡だが、実は東芝の洗濯機よりも前に採用した会社があった。西日本道路サービス(NEXCO西日本)だ。何に使ったというとトイレの水洗の水だ。洗浄力があるため、汚れが残りにくく、トイレ掃除の回数を激減することができた。
今後、対ハイアール、対LG電子の切り札として、マイディアの洗濯機にも使われるかもしれない。この技術は、それほど使える技術なのだ。