常人では計り知れない重圧と戦い続け、その総決算として北京五輪で4Aの壁に立ち向かったものの、SPでの着氷アクシデントやフリー前日にまさかの負傷を抱え込む羽目になってしまったのだから全演技終了後に舞台裏の真相を明かすことぐらい、せめて許してあげてもいいのではないだろうか。それだけ、羽生が素の自分を出さなければならないほど実際のところ本音としては悔しかったのではないだろうか。そういう気がしてならない。
揺れ動く思いをどう整理していくのか
北京五輪最終日の20日。エキシビションで松任谷由実の名曲「春よ、来い」をピアニストの清塚信也が演奏したメロディーに合わせて北京のラストリンクを舞った。スタンドに集まった中国の観客は悲鳴や大歓声を上げ、異例とも言える「ありがとう!」の日本語メッセージも向けられた。
北京最後の舞を終えた羽生は「ショート、フリーともに全力を出し切った。4回転半を含めてやり切りました」と述べ、3月の世界選手権出場については右足首捻挫の状態が思わしくないことから「どこまで戻るのか分からないですけど、自分の中でもけじめがついていないところもあるので総合的に判断して決めたい」と語るにとどめ慎重な姿勢を見せた。
現役続行に関して質問が及ぶと「フィールドは問わないって自分の中では思っています。それがアイスショーなのか、競技なのか、それが報われるのか、報われないのか、僕にはちょっと分からない」とも語っていた。
北京五輪では「やり切った」と完全燃焼を強調したが、その半面で右足首捻挫を患ったことで「自分の中でけじめがついてないところもある」と対照的な気持ちも吐露している。果たして揺れ動く心境をどう整理していくのか。いずれにせよ、どのような選択をチョイスするにしても世界のファンは受け入れてくれるはずだろう。
世のビジネスパーソンも羽生結弦の北京での舞に心を打たれ〝何か〟を感じ取った人はきっと多かったはずだ。栄光の舞台裏で葛藤しながらも歩を止めることなく、今後も伝説を築き上げていく27歳のスーパースターの生き様にぜひ注目してほしい。(敬称略)