2022年7月5日(火)

インドから見た世界のリアル

2022年2月28日

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長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

長期的には変わる可能性がある

 このように、インドにとって、武器の供給と、国連安保理における拒否権という観点から、ロシアが必要だという事情がある。歴史的な経緯からロシア寄りの有力者も多い。結果、ロシアのウクライナ侵攻に対するインドの姿勢は、ロシア寄りのものになっている。国連安保理の決議に棄権したのも、その一例だ。問題は、この傾向は、今後も続くのか、という点だ。実は変わっていく可能性がある。

 まず、過去10年を見ると、インドは、ロシアよりも、米英仏イスラエルの4カ国から武器を輸入することの方が多くなっている。今現在、保有している武器は、旧ソ連製やロシア製なので、修理部品や弾薬も、旧ソ連製やロシア製のものが必要だ。しかし、今後は、武器の更新が進むにつれて、米英仏イスラエルに依存する傾向が増していくだろう。そうすれば、インドにとってどの国が最も大事なのか、変わっていくことになる。

 次に、米国の姿勢が変わってきていることだ。2019年にパキスタンが支援するテロ組織が、インドでテロ事件を起こした際、当時、米国の国家安全保障問題担当補佐官だったジョン・ボルトン氏は、インドのアジド・ドバル国家安全保障顧問に電話をかけ、「インドには自衛権がある」といったとされる(米国の国家安全保障担当大統領補佐官も、インドの国家安全保障顧問も、日本で言えば国家安全保障局長にあたる)。

 インドが、パキスタンにあるテロ組織の拠点を越境空爆したのは、その直後だ。実は、米印、英印、日印首脳会談における共同声明や、今月のクアッド(QUAD)の外相会合でも、パキスタンが起こしたテロについて、パキスタンに取り締まりを求めたり、インドに対するテロを非難する、インド寄りの内容が盛り込まれている。米国もパキスタンへの武器売却をやめつつあり、インド重視の姿勢は明確だ。

 だから、今後、インドがパキスタンに対して軍事行動を行う場合、これまでのように、ロシアの拒否権に頼る必要はなくなりつつある。米英仏が、インドのために拒否権を行使するかもしれない。

 さらに、ロシアの政策が問題だ。ロシアは、インドが最大の脅威だと考えている中国との連携を進めている。さらに、中国と連携するのと機を同じくして、パキスタンに武器を供給するようになっている。

 例えば、中国とパキスタンが共同開発したとされるJF-17戦闘機のエンジンは、ロシア製だ。パキスタンはロシアからMi-35戦闘ヘリコプターも購入している。インドはこれらの取引に関して、ロシアに抗議している。もしロシアが中国との連携を進め、パキスタンにも武器を販売するなら、インドはロシアから離れていくだろう。

 つまり、今は、インドにとってロシアとの関係が重要である。しかし、その関係は、長期的には変化しつつある。今後の動向次第で、変わっていくだろう。注目である。

  
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