長期的には変わる可能性がある
このように、インドにとって、武器の供給と、国連安保理における拒否権という観点から、ロシアが必要だという事情がある。歴史的な経緯からロシア寄りの有力者も多い。結果、ロシアのウクライナ侵攻に対するインドの姿勢は、ロシア寄りのものになっている。国連安保理の決議に棄権したのも、その一例だ。問題は、この傾向は、今後も続くのか、という点だ。実は変わっていく可能性がある。
まず、過去10年を見ると、インドは、ロシアよりも、米英仏イスラエルの4カ国から武器を輸入することの方が多くなっている。今現在、保有している武器は、旧ソ連製やロシア製なので、修理部品や弾薬も、旧ソ連製やロシア製のものが必要だ。しかし、今後は、武器の更新が進むにつれて、米英仏イスラエルに依存する傾向が増していくだろう。そうすれば、インドにとってどの国が最も大事なのか、変わっていくことになる。
次に、米国の姿勢が変わってきていることだ。2019年にパキスタンが支援するテロ組織が、インドでテロ事件を起こした際、当時、米国の国家安全保障問題担当補佐官だったジョン・ボルトン氏は、インドのアジド・ドバル国家安全保障顧問に電話をかけ、「インドには自衛権がある」といったとされる(米国の国家安全保障担当大統領補佐官も、インドの国家安全保障顧問も、日本で言えば国家安全保障局長にあたる)。
インドが、パキスタンにあるテロ組織の拠点を越境空爆したのは、その直後だ。実は、米印、英印、日印首脳会談における共同声明や、今月のクアッド(QUAD)の外相会合でも、パキスタンが起こしたテロについて、パキスタンに取り締まりを求めたり、インドに対するテロを非難する、インド寄りの内容が盛り込まれている。米国もパキスタンへの武器売却をやめつつあり、インド重視の姿勢は明確だ。
だから、今後、インドがパキスタンに対して軍事行動を行う場合、これまでのように、ロシアの拒否権に頼る必要はなくなりつつある。米英仏が、インドのために拒否権を行使するかもしれない。
さらに、ロシアの政策が問題だ。ロシアは、インドが最大の脅威だと考えている中国との連携を進めている。さらに、中国と連携するのと機を同じくして、パキスタンに武器を供給するようになっている。
例えば、中国とパキスタンが共同開発したとされるJF-17戦闘機のエンジンは、ロシア製だ。パキスタンはロシアからMi-35戦闘ヘリコプターも購入している。インドはこれらの取引に関して、ロシアに抗議している。もしロシアが中国との連携を進め、パキスタンにも武器を販売するなら、インドはロシアから離れていくだろう。
つまり、今は、インドにとってロシアとの関係が重要である。しかし、その関係は、長期的には変化しつつある。今後の動向次第で、変わっていくだろう。注目である。